須藤容疑者の裁判は殺人容疑なので一般市民も加わる、裁判員裁判だ。


須藤容疑者は一貫して否認を続けており、自白調書もない。それをどう和歌山地検が立証できるかが、ポイントだ。

「ありとあらゆるケースを想定して、荒唐無稽な主張をしても、絶対に大丈夫なように捜査を積み重ねてきた」(前出の捜査関係者)

 和歌山地検は起訴状で須藤容疑者の単独犯だとしている。須藤容疑者が野崎さんに覚せい剤を摂取させた方法も「何らかの方法」としか記されていない。覚せい剤で野崎さんを殺害できるという知識を、須藤容疑者がネットで検索するだけで把握できたのか。須藤容疑者は野崎さんが急死した2か月後には、2つの会社を引き継ぎ、社長となって会社から約3800万円を自身に送金させている。当時23歳だった須藤容疑者が一人でそこまで考えて、実際に犯行を実行できるのか。疑問は尽きない。

 元東京地検特捜部検事の落合洋司弁護士は、裁判で立証してきた経験からこう語る。

「私が担当ならまず、野崎さんの身近な人の証言や毛髪鑑定、臓器などの鑑定で覚せい剤を常習的に使用していないという裏付けを指示します。次にお手伝いさんが絶対にシロだという捜査をし、確定させる。また、裁判員裁判ですから須藤容疑者が殺害に至った、誰もが納得できる動機が不可欠。おそらく野崎さんのカネでしょうから、銀行口座、クレジットカード、普段のカネ使いなどそちらも徹底的に洗う。消去法で須藤容疑者しか犯行に及ぶことができないという立証を積み重ねます。須藤容疑者が法廷でとんでもない主張をしかねませんから、その対応も必要です。すべてが揃ったので、殺人容疑で起訴できたと思います。ただ、物証や目撃証言がない密室の事件。最後は裁判官と裁判員が警察、検察の証拠をどう評価するかですね」

 一方でジャーナリストの大谷昭宏氏は起訴についてこう疑問視する。

「和歌山県警が何か隠し玉を持っているとみていました。しかし起訴になっても隠し玉はない。世間を大きく騒がせた事件なので、どうして犯人を逮捕できないんだという、世論に和歌山県警が押されて、立件にしてしまったのではないかという気がします。須藤容疑者は否認と報じられている。これから証拠が開示されますが、その中で覚せい剤を入手したこと動かせない事実があるか。覚せい剤の所持は認めるが、入手は野崎さんの指示だったなどと、2人しか知りえないことを主張するかもしれない。裁判員、裁判所を納得させるだけの立証を検察ができるのか、疑問です」

 逮捕後、弁護士の選任まで時間がかかったとされる須藤容疑者。現在は、和歌山県内の国選弁護人がついているという。裁判員裁判がはじまるまで1年以上はかかるとみられる難解事件は今後、どう展開するのか?

(今西憲之)

※須藤容疑者が再逮捕されたことにより、加筆しました。

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今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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