さらに珠世の医師としての働きから、彼女は無惨以上に医学的才能を持っていたと思われる。無惨は「鬼として」の肉体の不完全さを克服するため、「陽光」「藤の花の毒」を無効化する手段を探し、頭脳明晰な者・医学的知識にたけた者を重宝していた。珠世が、その知識をどれくらい無惨に伝えていたかは不明だが、無惨は配下の鬼の「思考」を自在に読むことができたため、彼女の知性の高さは、当然無惨も認識していたものと思われる。

 これらのことから、まちがいなく珠世は、無惨にとって「特別な存在」だった。

■珠世のたぎる「怒り」

 無双を誇った無惨であるが、剣豪・継国縁壱(つぎくに・よりいち)に敗北したことがある。命からがらその場を脱出する無惨に、珠世はこう叫んだ。

<死ねば良かったのに!!生き汚い男!!>(珠世/21巻・第187話「無垢なる人」)

 無惨が珠世を特別扱いする一方で、珠世は無惨のことを憎悪していた。無惨は、「病を治す」と甘い言葉でだまし、珠世を鬼にしたからだ。そして、珠世は、鬼化によって一時的に理性を失い、愛する夫と子どもを、自らの手で殺害してしまっていた。

<そんなことがわかっていれば 私は鬼になどならなかった!! 病で死にたくないと言ったのは!! 子供が大人になるのを見届けたかったからだ…!!>(珠世/16巻・第138話「急転」)

 夫殺し・子殺しの罪を背負うことになった珠世は、無惨への復讐をかたく誓う。通常、鬼化した人間は、理性と記憶を欠損する。しかし、珠世はそれらをいったんは喪失したものの、その後すぐに記憶・知性ともに、人間時代のものを回復している。鬼であっても、実力上位の者は、記憶を鮮明に維持できる。このことから考えても、珠世は鬼としても優秀であったことがわかる。

 さらに珠世は自分で肉体を改造し、思考に対する無惨の働きかけや、無惨から遠隔で与えられる「死」の呪いからも逃げおおせている。

■珠世がもたらした「新しい戦い方」

 無惨のもとを離れた珠世は、自分の「鬼の体」を実験台にして、「無惨を人間に戻す薬」を作ることに没頭する。

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無惨に対する激しい「怒り」