「今回のアルバムは、13曲すべて自分で作曲しました。80年代風のレトロサウンドの曲が多くて、これまでの『J-POPカバー』『バラード』とはかなり違う作品になっています。いい曲が作れるのか、ファンのみなさんは理解してくれるのか、自分のなかのコンプレックスと戦いながら作ったアルバムですね。どう評価されるかはわからないけれど、自分のベストを出せたこと、制作を通して、自分自身として生きられて良かったと実感しています」

 全身の姿を正面から撮ったアルバムのジャケット写真にも、「自分らしくありたい」というメッセージが込められているという。

「体形に自信がなかったこともあって、これまでジャケット写真は斜めから撮ることが多かったんです。『そのほうが細く見えていいよね』と言われながら(笑)。今回もダイエットしようかと思ったんですが、途中でストレスになってしまって。正面から撮ること自体もチャレンジだったし、自信を持っていろんなことに挑戦しようと伝えたかったんですよね」

 コロナ禍は、これまで隠されていた、または見て見ぬふりをしていた社会の歪みや脆さを顕在化させた。その渦中において、自分自身と社会との関わり方、今後の人生プランや生き方について改めて考えた人も多いはず。「自分らしさを誇りに思えれば、幸せにつながる」というクリスさんの考えは、先が見えない現状において、大きなヒントになりそうだ。

 最後に「差別や偏見をなくすために、何が必要だと思いますか?」という質問をぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。

「私の子どもはハーフですが、友達から『黒っ』と言われることもあります。子どもには『肌や髪のことを言われても気にせず、がんばろう』と伝えなければいけないですが、それだけでは何も変わらない。たとえば小学校でプログラムを組み、『すべての人があなたたちと同じではない。違いを認めて、理解することが大事だよ』と教えないといけないと思います。そうやって一人一人を守る文化が生れれば、日本はもっと良くなるはずです」

〇クリス・ハート/サンフランシスコ出身。2012年、テレビ番組『のどじまん ザ!ワールド』に出演し優勝、2013年にユニバーサルミュージックよりシングル『home』でデビュー。カバーアルバム“Heart song”シリーズは累計100万枚を突破し、2013年、2014年と2年連続で『NHK紅白歌合戦』出場を果たす。2017年に日本国籍を取得。2018年から活動を休止していたが、2020年に活動再開し、全国5都市のホールツアーを成功させる。2021年7月14日には5年ぶりのオリジナルアルバム「COMPLEX」発売。9月からは全国ホールツアー2021「LOVE IS MUSIC」を開催予定。https://chris-hart.jp

(構成/森朋之)

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森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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