こうした状況を、小さな子どもを育てる日本の女性アスリートはどう見るのだろうか。陸上女子100メートル障害日本記録保持者で、元7人制ラグビーの選手でもある寺田明日香選手(31)に話を聞いた。寺田選手は現在、6歳の娘・果緒ちゃんを育てながら競技を続けている。

サッカーのモーガン選手のように遠征に子どもを帯同させるには、ベビーシッターや宿泊所の手配など、チームの理解を得ることが必要です。それが許されていること自体、日本ではほぼ考えられないことです。私の場合は、そもそも合宿などに子どもを連れて行くという選択肢すらありませんでした」

 ラグビーで競技に復帰したのは果緒ちゃんが2歳半のとき。合宿中は家族に預けていた。ベビーシッターをつける支援制度が設けられたこともあったが、一度も利用したことはなかったそうだ。

 東京五輪で女性アスリートたちから声が上がっていることについては、こう語る。

「世界的に男女平等と女性活躍が謳われているなか、特に日本は後進国。アスリートの世界でもかなり遅れをとっています。東京五輪は史上初のジェンダー・バランスの取れたオリンピックであることを宣言しています。まだ授乳期間中であれば子どもにも影響しますから、女性アスリートが自ら辞退を申し出なければならないような事態になっていることに、モヤモヤとした思いがあります。授乳中のママということが理由で出場を断念することがないようにするべきです。どこで線引きをするかは難しいですが、連れてこなければならないほどの小さな子どもがいる選手は、それほど多くないはず。そこに対応できないということは、日本の力不足を見せてしまうことになるかと思います」(寺田選手)

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長は、国際女性デーの3月8日、東京五輪の公式ホームページで次のようにこう語っている。

<(最も影響を受けた女性アスリートは)旧東ドイツのクリスタ・ルーディング・ロテンブルガーさんです。スピードスケートと自転車、それぞれの競技においてオリンピックでメダルを獲得され、トップアスリートとしても活躍する一方、ドレスデン市議会議員を務め、大学にも通って勉強をされていました。結婚・出産後にカムバックしてメダルを獲得するなど、「こんな人がいるのか」と大変影響を受けた方です。ロテンブルガーさんの生き方を見て、私も自転車に挑戦し、そして政治の道に進む原点にもなりました>

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