低学年のうちから塾に入らなくとも、日常生活の範囲で、他人と関わり合いながら、「知」「仁」「勇」の力を伸ばし、蓄えることができるのではないでしょうか。そのためには相談者さんのおっしゃる通り「友達と遊ぶこと」は大切です。遊びにも「知」「仁」「勇」をもって工夫することが求められるからです。 

 悩ましいのは、ご自分の受験時代との違いですね。

 時代は、どんどん変化していきます。望ましいことではありませんが、少子化のなか、今後、ますます格差は拡大していくことでしょう。それは高い学歴を持った人が、高収入、高い地位を得るという意味ではありません。競争社会では、柔軟で深い思考力と、判断力、そしてあきらめない勇気を持った人が勝つ可能性が高い、ということです。その傾向は、30年前に比べて強くなっていることは、教育の現場にいて強く感じます。

 孔子は、「君子は無能を病(なや)みとす」(衛霊公第十五)とも言っています。

 文字通り「立派な人は、自分に能力がないことを気に病む」という意味です。中学受験は、合格するために必要な「能」を養うひとつのチャンスともいえます。記憶力だけに頼るのではなく、「物事をいかに考えるか」を学ぶ機会だからです。入試で課される国語、算数、理科、社会の4教科は、生きるための基本の能力だと思えば、将来の職業をも展望した道が見えてくると思います。「知」「仁」「勇」を発揮するためにも「能」を磨くことは、重要です。

 相談者さんは、周りに後れをとったことに焦っていますね。でもまずは、低学年の小学生にもわかるやさしい言葉で、「知」「仁」「勇」とは何か。そしてそれらを身につけるためにどう過ごすべきか、ぜひ息子さんと話し合ってみてください。親子で納得できる答えがみつかることを願っています。

【まとめ】
中学受験を、「人が体得すべき『知』『仁』『勇』を身につけるためのステップ」ととらえてみては。「知」「仁」「勇」を発揮するためにも「能」を磨くことは大切

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ  0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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山口謠司
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山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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