それはJAK阻害剤のメカニズムがわかると納得できます。

 アトピーは、かゆみとカサカサ肌、そしてアレルギーが病気の原因と考えられています。そのうちのアレルギーに関しては、Th2反応の亢進が症状を引き起こしています。

 体の中にはサイトカインと呼ばれるタンパク質が存在し、このサイトカインはその作用から数種類に分類されます。代表的なものにTh1、 Th2、 Th17があります。Th2を構成するサイトカインにIL-4やIL-5、 IL-13などがあります。これらTh2サイトカインがアトピーや喘息の症状を引き起こしています。

 バリシチニブが作用するJAKは細胞内シグナルと呼ばれるもので、とくにサイトカインが細胞に反応して症状を起こす際に重要なシグナルです。つまりJAKを阻害できればTh2サイトカインが引き起こすアレルギー反応をブロックすることができます。そのため、バリシチニブはアトピーで治療効果が認められるわけです。

 話をCOVID-19に戻しましょう。COVID-19重症化の原因にサイトカインストームが指摘されています。サイトカインストームとは、感染をきっかけにさまざまなサイトカインが血中に多く放出され致死性の病態が誘導された状態を言います。JAK阻害剤はサイトカインの作用を広くブロックできます。つまり、サイトカインストームを抑える効果としてJAK阻害剤は有効であったと考えられます。また、すでにCOVID-19で承認されているステロイドは過剰な炎症を抑える作用があるため、バリシチニブ同様に効果がありました。

 このように強い炎症全般に効果を発揮するバリシチニブですが、決して万能ではなく副作用もあります。

 代表的なものに帯状疱疹(ほうしん)、肝機能障害、上気道感染が報告されています。また、頻度は少ないものの注意すべき副作用に脳梗塞や心筋梗塞、悪性腫瘍があります。

 COVID-19の試験ではバリシチニブを単独使用したわけではなく、抗ウイルス薬レムデシビルを併用したのは、やはりバリシチニブだけでは感染を抑えることができないからでしょう。それはバリシチニブの副作用に上気道炎やウイルス感染があることからも明白です。

 バリシチニブはアトピーだけでなく関節リウマチにも使用される薬剤であるため、内科医もなじみがある薬剤です。このため、使いやすい一方、安易な処方には注意が必要です。安全に、そして効果的に使っていく必要があるでしょう。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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