受験するのは自由だが、とりあえず進学はしなさい、という親の意見にひとまず従いました」

 そこまでして、Nさんが東大にこだわる理由は何なのか。

「人生で一度でもいいから、一番の座を取ってみたいという思いがあった。親が東大卒なので、その影響もあったと思います。仮に今年落ちていてもまた仮面浪人したはずだし、たぶん、死ぬまで受験を続けていたと思います」

 仮面浪人を決めてからは、学力を伸ばすというよりも、モチベーションやメンタルの維持に努めた。「予備校浪人」と違って、周りに同じ志を持つ仲間がいない。ツイッターで東大志望の仮面浪人たちを探していく中で、「仮面浪人サークル」を見つけ、参加するようになった。

「一緒に頑張る仲間がいるのは心強かったし、サポートも手厚い。(受験科目を)地理から世界史に変えて不安だったが、勉強方法や論述の解き方を助言してもらったことで、勉強の方針を定めることができた。なにより先輩方から励ましの言葉をかけていただいたのが大きかった」

 晴れて志望校に進学した現在は、友人もできて楽しい大学生活を送っている。コロナ禍でまだ思うように活動ができていないが、スキーやテニスのサークルに入り、これまで我慢してきた分を楽しもうとしている。そして、今後はサークルのサポート役もしたいと考えている。

「この2年間の経験は、何物にも代えがたいものでした。これまでサークルに助けられた分、自分も助ける側に回って恩返しをしたい」

 マイノリティーだからこそ、同志が支え合う絆が生まれる「仮面浪人サークル」。そこでは、「ドラゴン桜」とはまた違う形で、受験生それぞれのドラマが生まれ続けている。(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)