飲み会や食事の場でのテーブルは、志望校が近い人同士で割り振られる。そのほうが本音で語り合える上、連帯意識の高まりが期待できるからだという。

「たとえば『早稲田から東大に行きたい人』と、『明治から早稲田に行きたい人』を同じテーブルにしてしまったらどうでしょうか。一方は早稲田にどうしても行きたいのに、他方は早稲田に満足していないのですから、角が立ちやすいですし、どうしても気を使います。また、医学部や国立志望は科目数が多いので理数科目の話もしたい。3科目の私立文系組と一緒のテーブルだと、話題を合わせづらい」(松尾さん)

 食事会のほか、定期的にボーリングや屋外散歩などの交流イベントを開催し、気分転換を図る。このほか、精神科医(この医師も再受験者)によるカウンセリングなど、メンタル面でのサポートにも力を入れる。

「仮面の子は、志望校に対する思いが強いあまり、過剰に勉強してしまうことも多い。でも、ずっと部屋にこもって勉強していると、心身ともに崩れてしまいます。気分転換のために、定期的に外に出る機会をつくることはとても重要です」(同)

 もちろん、仮面浪人したからといって、再受験が成功するとは限らない。サークルでは、合格できなかった時のアフターケアにも注力しているという。

「志望校へのこだわりが強く、落ちた後には在籍する大学に行く気力がなくなり、留年や退学をする人も少なくない。そんな人たちの心の傷をケアするために、希望する会員には個別の面談などをしています。『孤独になりがちな仮面浪人生たちを救いたい』という思いはずっと持っています」(松尾さん)

 こう思うのは、サークル創立に携わった松尾さん自身、仮面浪人で苦しんだ過去があるからだ。大学1年時に仮面浪人をしていたことがうわさになり、学内に居場所がなくなる経験をした。

「ある授業で前方の席に座っていたら、後ろの席の同級生に、トートバッグに忍ばせていた(大学受験用の)参考書が見つかってしまった。それ以降、仮面浪人のうわさが広まって、早稲田愛の強かった友人からは『だったら大学辞めろよ』と言われるなど、完全に裏切り者扱いでした」

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親の許可が得られない仮面浪人生