※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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子宮頸がんデータ
子宮頸がんデータ
イラスト/今崎和広
イラスト/今崎和広

 子宮頸がんは、女性特有の臓器である子宮の頸部(入り口の部分)にできるがんで、20、30代の若い世代から罹患のリスクがある。他の婦人科がんに比べて、放射線治療の効果が期待できるのが特徴だ。外照射と腔内照射を組み合わせるのが一般的だ。抗がん剤を併用することで、放射線治療の効果が上がることもわかっている。

【データ】子宮頸がんのかかりやすい年代や主な症状は?

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 子宮頸がんは進行に合わせて、IIB期(がんが子宮頸部の周辺組織に広がっている)までなら、子宮頸部円錐切除術や子宮全摘出術の手術が適応となる。進行度やがんのタイプによって、手術と同等の成績が見込める場合や、進行例などで手術が適応されない場合には、放射線治療や抗がん剤などによる薬物療法が考慮される。

 子宮頸がんの約7割を占める扁平上皮がんは放射線治療の効果が見込めるがんだ。IB期(がんが子宮内にとどまり、肉眼で病変が確認できる)では完全な治癒を目指す目的で、手術以外に放射線治療も選択されている。再発率や生存期間において、手術と差がないという結果が出ているからだ。

 また以前は、IIB期において、広汎子宮全摘出術をおこない、その後放射線を照射する治療が一般的だった。しかし手術+放射線治療と、放射線治療と薬物療法を組み合わせる同時化学放射線療法(CCRT)では生存期間などに差がないことが明らかになった。患者の心身への負担も考慮して、現在ではIIB期でCCRTを選択するケースも増えてきている。

 子宮頸がんの約2割を占める腺がんでも同様の治療の選択肢がある。杏林大学病院産科婦人科診療科長の小林陽一医師は次のように話す。

「腺がんのほうが抗がん剤や放射線の効果が低いと考えられています。そのため、扁平上皮がんでは放射線治療が適応になるようなケースでも、腺がんの場合は手術を優先する病院もあるようです」

■外照射と腔内照射の併用が一般的

 子宮頸がんの放射線治療には、外照射と腔内照射がある。

▼外照射=放射線をからだの外から当てる。X線撮影と同じような要領だ。

 放射線治療では、周囲の臓器にも放射線が当たってしまい、障害が起こるリスクがある。子宮頸がんの場合、膀胱や直腸への影響が危惧される。

 照射中から数週間後の合併症として、照射部位の皮膚炎や、直腸炎、膀胱炎などがある。また、時間がたってから合併症が表れる「晩期合併症」があるのも、放射線治療の特徴だ。腸管出血、直腸に孔が開く穿孔などが起こることがある。

 リニアックと呼ばれる機器を用いた照射が一般的だが、再発予防目的の場合には、照射に強弱をつけて、必要な部位だけに多くの放射線を当てることができるIMRT(強度変調放射線治療)が普及してきている。一般的に通院で、週5回の照射を6週間続ける。

▼腔内照射=腔内照射は子宮に器具を挿入して、いわばからだの内側から放射線を照射する方法だ。がん細胞の近くに線源を置けるメリットがある。

 放射線治療では通常、外照射から始めて、後半で腔内照射を併用する照射法がすすめられている。

■分子標的薬が16年に保険適用

 子宮頸がんの薬物療法は、抗がん剤のなかでも、シスプラチンを中心とした白金(プラチナ)製剤と呼ばれる薬を用いるのが一般的だ。がん細胞のDNAに作用して、増殖を抑える働きをもつ。CCRTではシスプラチンの毎週投与に、放射線治療を組み合わせる。シスプラチンはがん細胞に作用するだけでなく、放射線治療の効果を高める作用も明らかになっている。

 薬物療法を単独でおこなう場合には、シスプラチンとパクリタキセルを併用することが標準的な治療となる。

 抗がん剤の副作用として吐き気、おう吐、食欲不振、脱毛、腎機能障害などがあるが、最近は制吐剤などを用いて、できるだけ副作用を軽減しながら投与される。

 近年、研究が進み、さまざまな薬剤が登場しており、その一つに「分子標的薬」がある。抗がん剤が正常な細胞も攻撃してしまう一方、分子標的薬はがん細胞を選択して攻撃するため、正常な細胞のダメージが少なく、副作用も抑えられる。子宮頸がんに対しては、ベバシズマブが2016年に保険適用になっている。再発例や、IV期(他臓器への転移がある)で見つかるような進行例で、抗がん剤との併用の形で用いられ、効果を上げている。副作用として、高血圧やたんぱく尿、腸管穿孔などがある。

 なお、がんの広がりや大きさによっては、抗がん剤を術前に用いてがんを小さくしてから手術に臨む「術前化学療法」が考慮されることがある。

 子宮頸がんが再発する場合は、約7割が最初の治療後2~3年で再発するといわれる。骨盤内での局所再発のほかに、リンパ節、肺、肝臓、骨などに現れやすい。県立静岡がんセンター婦人科部長の平嶋泰之医師は次のように話す。

「治療後、病状に応じて、腫瘍マーカーなどを用いて3カ月ごと、6カ月ごとなどの定期的なフォローをしっかりおこなう必要があります」

 扁平上皮がんでは、SCCという腫瘍マーカーが比較的、変化をとらえやすいとされている。検査値が上がってきたら、CT(コンピューター断層撮影)検査やPET検査などで精査する。

 子宮頸がんの5年生存率はI期で90%以上、II期で約75%だ。検診で早期発見できれば回復の見込みは高い。特にCIN(子宮頸がんになる前段階の状態)で発見されて適切な治療を受けると、100%近い治癒が望める。多くの自治体では20歳以上の女性に2年に1度の検診を補助している。検診を受け、早期発見・早期治療を心がけたい。

(文・別所 文)

※週刊朝日2021年5月21日号より