もう1人先発で結果を残しているのが野村祐輔(広島)だ。今シーズンは4試合に先発してまだ勝ち星をあげることはできていないが、初登板となった3月28日の中日戦では6回を無失点、4月25日の巨人戦でも5回を2失点としっかり試合を作っている。そしてこの4試合でいまだに140キロを超えるスピードをマークしておらず、スピードガンの数字では秋山よりも更に低いのが現状である。そんな野村の投球の特徴は、まずストレートの割合が極めて少ないという点である。

 組み立ての中心となるのはカットボール、スライダー、ツーシーム、チェンジアップの4つの球種。カットボールとツーシームは130キロ台、スライダーとチェンジアップは120キロ台と、ほぼ同じスピードで左右対になるボールを2セット揃えているのだ。そしてこの4つのボールをコーナーに投げ分け、打者の狙いを巧みに外して打ちとっていくのだ。ボール自体の力がないためホームランを浴びることはどうしても多くなるが、それでも恐れずに内角を突けるというのも大きな武器である。ここ数年は成績が下降傾向にあるが、まだまだ先発として貴重な存在であることは間違いない。

 本格派の多いリリーフ投手で、現役でナンバーワンの技巧派と言えるのが嘉弥真新也(ソフトバンク)だ。2017年からは4年連続で50試合に登板して防御率は2点台と、常勝チームの中継ぎとして欠かせない存在となっている。172cm、71kgというプロ野球選手としてはかなり小柄な部類に入り、ストレートは速くても140キロ程度。それでも抑えられるのはスライダーという必殺の武器があるからに他ならない。ストレートと変わらない軌道で打者の手元で横に滑り、曲がる大きさにも微妙にバリエーションがある。このボールをコーナーいっぱい、ストライクからギリギリでボールになるところに徹底して集められるというのがパ・リーグの強打者たちを抑え込める秘訣である。

 基本的には左打者との対戦が多いが、右打者に対してもこのスライダーを両サイドに投げ分け、時折対になるシュートやチェンジアップも駆使して抑え込むことができている。体が小さくてもそれほど多彩な球種がなくても、1つの大きな武器があればプロでも一流になれることを証明している投手と言えるだろう。

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投球術で抑える投手が持つ凄み