余談ですが、『十戒(1984)』の詞は、メキシコで書きました。メールなどない時代だったので、電話で一言一言、詞を読み上げて伝えたのを覚えています(笑)。

――先生ご自身は、明菜さんとお会いになられたことは?

売野 僕が明菜ちゃんと会ったのは、『キャンセル!』(アルバム『バリエーション<変奏曲>』に収録)のレコーディングのとき、一度だけなんです。ただ、そのときはほとんどお話しできませんでした。明菜ちゃん自身は、ツッパリ少女路線はあまりお好きではなかったようです(笑)。

――最後に、先生から見た明菜さんの魅力を、改めてお聞かせください。

売野 とにかく、言葉を表現することに関して、天才だと思います。歌心がもともと魂の中に宿っているから、素直に感じたままに表現するだけで、誰もかなわない、誰にも真似できない歌になるんですよね。そんな明菜ちゃんの作品を作ることができたのは、とても名誉なことだと思っています。

――40年目に突入した中森明菜だが音楽活動の知らせはいまのところない。ぜひまた「誰もかなわない」彼女の歌声を聞きたいものだ。

■売野 雅勇(うりのまさお)1951年2月22日生まれ。1981年にシャネルズ(後のラッツ&スター)の「星くずのダンス・ホール」で作詞家デビュー。1982年に中森明菜の「少女A」が大ヒットし、その後は、作曲家・芹澤廣明とのコンビでチェッカーズの一連のヒット曲を生み出す。中森明菜の楽曲は「少女A」「キャンセル!」「1⁄2の神話」(オリコン1位獲得)「思春期」「ルネサンス -優しさで変えて-」「禁区」(オリコン1位獲得)「100°Cバカンス」「十戒 (1984)」(オリコン1位獲得)の作詞を担当。

■インタビュアー・文/エスムラルダ/Esmralda/1972年3月13日生まれ 東京都出身/1994年よりドラァグクイーンとして、各種イベントやメディア、舞台、講演会等に出演。脚本家・ライターでもあり、2012年にテレビ朝日のシナリオコンクールの優秀賞を受賞、2017年には東宝ミュージカル『プリシラ』(宮本亜門演出)の翻訳を担当した。2018年からは及川眠子・中崎英也プロデュースによるディーヴァ・ユニット「八方不美人」のメンバーとしても活動。近著にビジネス書『ロジカルメモ』(本名名義、アスコム刊)。