が、実際のところ、明菜は聖子とともに80年代を代表する歌姫となった。ただ、本当の意味で80年代を象徴するのは聖子だろう。その音楽やファッション、生き方はまさに80年代の日本の空気や色彩と一体化していて、彼女の存在そのものがあの時代を思い出させる。

 そのかわり、明菜はもっと大きなもの、たとえば歌謡曲の混沌とした本質を象徴している気がする。そのなんでもあり的で、ともすれば不安定なところも含め、じつに歌謡曲的だと思うのだ。

 つまり、聖子があくまで聖子の歌で輝くのに対し、明菜は他の人の歌をうたっても面白かったりする。それゆえ「歌姫」シリーズのようなカバーアルバムが好セールスを記録してきたのだろう。

 カバーの選曲には彼女の意向がかなり反映されているようで、それこそ、百恵の「愛染橋」やユーミンの「魔法の鏡」といった、デビュー前から好きだっただろう歌を聴くことができる。歌姫と呼ばれる前の、歌が大好きな少女だった頃の気持ちまで感じられるのである。

 デビュー40年目を迎えた今、彼女は必ずしも歌手として万全な状態ではないのかもしれない。ただ、かなうことなら、大好きな歌を思う存分うたう姿にまた出会いたいものだ。多くの人がそれを心待ちにしているに違いない。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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