■「統計学習」は、人間の思考・行動に与える影響大

 この「統計学習」は、人間の思考や行動に多大なる影響を与えます。

 しかし、これまで長らく研究者の間でも疑問の的でした。というのもこの統計学習は、「無意識」で行われる、潜在意識下の脳の学習だからです。

 現在では、科学技術の発展に伴い、脳活動などの計測技術も飛躍的に向上したために、「無意識」「潜在意識」に関する多くのことが明らかになってきました。それにより、近年、「統計学習」も注目されることが多くなってきました。

 また、この「統計学習」は、脳神経科学や心理学の領域にとどまらず、コンピュータ・サイエンスやAIの分野でも注目されています。「統計(確率の計算)」というくらいですから、コンピュータでモデル化しやすいのです(ただし、脳神経科学や心理学などで用いられる定義と、コンピュータ・サイエンスで用いられる定義は多少異なりますが)。

 現在、私は、この統計学習の「不確実性のゆらぎ」から生じる個性や創造性について研究していますが、研究手法は幅広くあります。

 「脳神経科学的手法」だけではなく、電子楽譜を利用した楽譜解析による音楽理論やモデルの構築、またその計算モデルを使った人工作曲などがあります。

 こういった研究分野は、「デジタル・ヒューマニティ」と呼ばれる研究領域を含みます。

 「デジタル・ヒューマニティ」とは、脳神経科学、心理学、情報処理(データマイニング)やAIを駆使して、音楽的、文学的、哲学的な問題に取り組む研究領域で、まだ新しい領域ですが、非常に重要なアプローチ法の一つとして、世界的に確立されつつあります。(了)
                                     
【プロフィール】
大黒達也(だいこく・たつや)
東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 特任助教。医学博士。
1986年青森県八戸市生まれ。オックスフォード大学、マックスプランク研究所(独)、ケンブリッジ大学などを経て、現職。専門は音楽の脳神経科学。現在は、神経生理データから脳の創造性をモデル化し、創造性の起源とその発達的過程を探る。また、それを基に新たな音楽理論を構築し、現代音楽の制作にも取り組む。著書に『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)がある。