■治験をしたいがお金がない 楽天・三木谷氏との出会い

 だが同社には大手企業ほどの資金がなかった。そこで小林医師自ら、出資者探しに奔走した。

「ゲイツ財団や医療機関にも行き、学会の講演直後、携帯電話で投資家に説明したりもしました。それでも、なかなか資金提供が受けられませんでした」

 転機は13年。楽天・三木谷浩史氏との出会いだ。当時、同氏の父親は膵がんを患っていた。

「研究に興味を示され、学会で訪日した際、会食に招かれました。がんについてとても勉強してこられたのだと感じました」

 数日後、シンガポールにいた小林医師に「また日本に来るなら話せないか」とメールが来る。すぐに日本に戻り、羽田空港至近の楽天本社(当時)で、三木谷氏の父親の医師団同席のもと、研究の説明をした。

 日本滞在の最終日。宿泊していた銀座のホテルを再度訪れた三木谷氏に告げられた。

「治験をしましょう」

 出会ってから1週間で、研究への出資が決まった。

「驚きました。三木谷さんはいろいろな治療法を見てきたからこそ、目新しく感じたのでは」

 15年5月、実際にがん患者への治験が始まった。そして20年の薬事承認・保険収載。注射をして光を当てるだけという、治療のシンプルさが話題となった。

「私はお金があまり潤沢ではないラボにいました。そこで開発した治療なのだから、安くあるべき。そのためにシンプルで費用のかからない仕組みを考えてきました。貧乏人が開発したからこそのプライドなんです(笑)」

 患者を苦しめない安全な治療を、誰もが受けられるようにしたい。小林医師の思いが、34年の歳月を経て、ついに届く。

■小林久隆(こばやし・ひさたか)医師
NIH/NCI(米国立保健研究所・国立がん研究所)分子イメージングプログラム主任研究員。京都大学大学院卒。NIH/NCIに勤め、光免疫療法を開発した。

(文/白石圭)

※『手術数でわかる いい病院2021』より