■自覚症状が少なく病気が進行しやすい

 一方、大動脈弁狭窄症は、大動脈弁にカルシウムが沈着し石灰化が起こり、弁が狭くなることによって、全身へ血液が送り出しにくくなり、心臓にかなりの負担がかかることになる。

「心臓弁膜症がやっかいなのは、早期の場合は狭心症のような胸痛がないなど、明らかな自覚症状に乏しいことです。歩くと息があがる、疲れやすいという症状はあるものの、多くの人が年をとったせいだと思い、そのままやり過ごし、病気を進行させてしまうのです」

 そう話すのは、東京ベイ・浦安市川医療センターハートセンター長の渡辺弘之医師だ。テレビなどで見かける、心臓弁膜症のCMの監修にも関わっており、65歳を過ぎるころになったら、単なる年齢による衰えと片づけないで、きちんと検査を受けるべきだと渡辺医師は強くすすめる。

「今まで楽に歩いていた道を歩くのがつらくなったとか、女性の場合では、家事で難なくこなしていたこと、たとえば洗濯物を干したり、お風呂の掃除をしたりするのがつらくなったら要注意です。同じ動作が去年に比べてつらくなるといった年単位の変化や同世代の人と比較して動作が劣ってきたといったことも発症の目安になります」(渡辺医師)

 また、本人が気づかない動作の衰えなどを、家族や周囲の人が気づいてあげることも大切だという。

「狭心症のように生活習慣病が原因というような、明らかな危険因子は特にありません。加齢による動脈硬化や腎機能の低下など、長年心臓に負担をかけてきたことにより発症します。75歳を過ぎると10人に1人が発症する病気のため、ある程度年齢を重ねてきた人は意識するべき病気です」(同)

 心臓弁膜症は、できるだけ早期に発見して、医師に定期的に観察してもらいながら、最適なタイミングで手術などの根治治療をおこなうことが重要だ。

「おかしいと思ったときに受診していただければ、聴診器で音を聞くだけでも、ある程度病気があるかどうかわかります。その結果、心臓弁膜症が疑われたら、専門医のもとで、心エコー図検査を受ければ病気を発見できます」(同)

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