しかしどんなやり方よりも重要なのは、毎日続けることです。続けられる人とそうでない人は、「なぜ英語を学ぶのか?」という動機付けをちゃんと意識できているか、またそれを適宜メンテナンスできているかで差が出ます。『独学大全』では、学び始めたきっかけと現在への影響を振り返る「学びの動機付けマップ」という技法を最初に置いています。

 独学の場合が特にそうですが、学んでいると必ず想定外のことが生じて、多くの人が挫折します。急な用事に割り込まれたり、勉強どころじゃない窮地に陥ったり。そんなとき、そこで終わるか、『いや、もう一度!』と学び直せるかは、最初の気持ちを思い出せるかどうかにかかっています。

『百科全書』を編集したフランスの思想家ドニ・ディドロはこう言っています。「本当の考えとは、決して動かなかった考えではなく、何度も立ち戻っていった考えのことだ」と。多くの人は、自分の記憶に価値を置いていません。ただの主観だし、何より既に過ぎ去った過去のことだから。けれど、他でもない自分を動かす一番強い力は、記憶の中に見つかる。なぜなら、人格をつくっている精神の骨格は、その人自身の記憶でできているからです。

 学び始めたきっかけを思い出し、それに意味づけすることを繰り返すことで、記憶は磨かれ光を帯びる。その価値は高まります。学び始めたきっかけは、失敗をして恥をかいたような、思い出すのもつらい出来事かもしれません。けれど、それを学び続けるために活用できればいい。いくらかの英語運用能力を身につけた後には「あれがあったからここまで来られた」と言えるようになるでしょう。

<プロフィール>
読書猿さん 2008年からブログ「読書猿 Classic:between/beyond readers」を主宰。ギリシア時代の古典から最新の論文まで、先人たちのあらゆる知を「独学者の道具箱」としてまとめ、独自の視点で紹介する『独学大全』(ダイヤモンド社)が、17万部突破。昼間は普通の勤め人として働く傍ら、朝夕の通勤時間と土日に独学に励んでいる。

(構成/曽根牧子)

AERA English 2021 Spring & Summerより