神奈川県立がんセンターは、15年に重粒子線治療を開始。患者数は当初、1カ月10人程度だったが、重粒子線治療が保険適用となったことから19年後半あたりから30人を超えるようになり、放射線治療の症例数が伸びることで、全体の治療数が増えてきた。

 手術しかできない、放射線治療しかできないとなると、患者がその病院ではできない治療法を希望した場合、他の病院を紹介されることになる。しかし、現実には、その病院でできる治療法がすすめられ、患者の選択肢が狭められることも起こりえる。

 両方の治療法が提供可能なら、このような問題も避けられる。岸田医師は、患者の病状や希望によって、治療法を使い分けることが重要だと話す。

 同センターでの前立腺がんの手術は、すべてロボット手術でおこなわれている。18年にロボット手術を導入し、19年には141件おこなった。ロボット手術と放射線治療の両方の治療法を提供している経験を生かし、治療目的の患者が来院するとまず、双方の利点と欠点を1時間ほどかけて詳しく説明する。患者がどちらの治療法を希望していても、最初に対応するのは泌尿器科医だ。

 いずれの治療法も熟知した専門医が「われわれの目からするとこちらがよいかと思われます」と、患者の希望とは異なるアドバイスをすることもある。

「紹介元の先生方は適切に診断し、患者さんに治療法選択もご説明いただいていることが多く、患者さんにすすめられた治療法が大きくはずれることはありません。しかし、なかには重粒子線治療の目的で当院に来院したものの、われわれの話を聞いて手術を決断される患者さんもいらっしゃいます。逆に手術希望だったものの、合併症や年齢などから放射線治療をおすすめし、変更されるケースもあります。このように患者さんごとに適切な治療を選択・提供できるのが、当施設のメリットの一つでしょう」

 患者や地元の医療機関から選ばれる理由はほかにもある。関連する診療科の連携である。前立腺センターとしてセンター化し、多部門がその中で定期的にカンファレンス(会議)を開き、個々の患者の病状について吟味しながら治療を進めている。参加するのは泌尿器科を中心に、放射線治療科、放射線診断科、病理診断科などである。

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