これまで相手を徹底的に打ちのめしてきた河村氏が、横井氏の勢いに押され、守勢に立たされた。河村氏がワクチン接種は「近くの病院に相談すればいい」と演説で話し、名古屋市にもその方針を打ち出した。だが、名古屋市の担当部局の動きは鈍かったという。

 4月19日に高齢者向けにワクチン接種券の郵送をはじめると、予約電話が殺到。区役所に押し掛ける高齢者も多数おり、混乱をきたした。

「市長として、混乱になって申し訳ない。だが、ワシは近くの病院でまず相談してと市役所に指示しておる。その通り市役所がやれば、大きな混乱にはならない。誰に頼まれたのかよくわかりゃあせんが、選挙に合わせて混乱させて、喜ぶ人がおるんじゃないか」

 河村氏は記者にイライラをこうぶちまけた。

 中盤になって河村氏が盛り返し、ほぼ互角かとなった終盤4月21日。リコール活動の事務局長だった元愛知県議の田中孝博氏が突然、記者会見し、大騒ぎになった。これまで通り、偽造署名を否定。河村氏が名古屋市議会を解散した10年前のリコール活動について「10年前の市議会リコールでも多数の不正、無効署名があった」と爆弾発言をした。
「河村氏と何度も酒を飲み、その代金を支払った」と領収書まで公開したのだ。

 河村氏は選挙活動をいったん止めて、記者会見を開き、応酬した。
記者の取材に対し、こう捲し立てた。

「田中氏はとんでもにゃぁことをいう。選挙妨害だ。裏で誰がワシの足を引っ張っろうとしているのか。名前は言わんが、よくわかっておる」

 一方で「期日前投票の出口調査はどうだ」と苦戦を覚悟してか、何度も尋ねてきた。最終的に期日前投票の出口調査では河村氏は横井氏に僅差で負けていたとみられる。そこまで追い込まれても、河村氏は当日に得票を伸ばして劣勢を跳ね返し、横井氏に5万票近くの差で勝利した。

 選挙戦終盤になると、名古屋市郊外で演説をする河村氏は動員もかけていないのに、100人近くの聴衆が集まった。

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「次の衆院選挙への出馬は悩ましい」