しかし第1次訴訟、第2次訴訟とも、地裁は判決のなかで、主権免除原則をめぐる国際法上の判例や条約解釈の変遷だけでなく、原告が訴えた被害の中身や日韓の外交交渉の経緯、被害者の救済のあり方にまで詳しく検討したうえで結論を出している。

 主権免除を認めて訴えを却下した第2次訴訟の判決でさえ、菅首相のように「これは決まりですから」と一刀両断せず、詳細な説明を尽くしている。その詳しさは、「門前払い」とはほど遠い印象を受ける。むしろ、主権免除の原則といえども絶対でなくなりつつある昨今の国際法の動向を反映し、「いくつかの条件が変わっていれば、判決には逆の結論もあり得たかもしれない」との含みすらうかがわせる。

 2000年に韓国、中国、フィリピン、台湾の元慰安婦ら15人が米ワシントンの連邦地裁に日本政府を相手取り提訴したときは、日本政府は訴訟手続きに応じて申立書を裁判所に提出し、主権免除の適用などにより却下すべきだと主張した。一方、今回のソウル中央地裁の二つの裁判に対しては、日本政府は外交ルートでは却下を働きかけたが、裁判そのものへの参加は一切拒否し、書面を裁判所に提出することもなかった。第1次訴訟判決への控訴もしなかったため、原告側勝訴が確定する結果となった。山本弁護士は「米国の裁判所の訴訟には応じるが、韓国の裁判所には応じず、判決も無視するという日本政府の対応は、明らかに韓国を蔑視した二重基準だ」と批判している。