一方、第2次訴訟が提訴されたのは2016年12月。慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓政府間合意について「被害当事者の意向が反映されていない」と反発する李容洙さんら元慰安婦20人が、日韓合意から1周年を期して提訴した。一審判決時の生存者は4人。韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が支援している。挺対協は2018年、日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)と改称した。原告側は判決を不服として控訴する方針とみられる。

 二つの訴訟はいずれも、「国家には他国の裁判権が及ばない」とする国際慣習法上の原則「主権免除」(国家免除)が認められるかどうかが争点となった。第1次訴訟判決は主権免除を認めず、今回の件で韓国の裁判所が日本政府を被告とできると判断し、原告の請求を認容して日本政府に賠償責任があるとの結論に達した。これに対し第2次訴訟判決は一転、主権免除を認め、韓国の裁判所には日本政府を被告とする今回の件を裁く管轄権がないと判断し、訴訟そのものを不適法だとして却下している。

 第1次と第2次訴訟のいずれの判決も、原告ら女性たちが慰安婦とされた戦時中の日本軍や政府の行為を「深刻な人権侵害」などと認定した点では、ほぼ共通している。判断が分かれるカギになったのは、重大な人権侵害を受けた被害者の裁判を受ける権利を、主権免除によって制限してよいのかという点だった。第1次訴訟判決は、女性らを慰安婦としたことは「日本帝国により計画的、組織的に広範囲に行われた反人道的犯罪行為」であるから、主権免除は適用できないとして、「例外的に韓国の裁判所に日本政府に対する裁判権がある」と判示した。

 慰安婦問題の裁判に詳しい山本晴太弁護士によると、主権免除をめぐっては「国家のいかなる行為も他国の裁判権から免除される」という「絶対免除主義」が19世紀までは支配的だった。しかし20世紀には商行為などで「例外もある」との考え方が広がり、21世紀初めごろからは、重大な人権侵害を受けた被害者が裁判を受ける権利について、国家の「主権免除」原則よりも重視されるべき場合があるとする「人権例外」という考え方が浸透しつつあるという。

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第一次訴訟判決は「画期的」?