ところが、井野修一塁塁審がハーフスイングを取り、三振をコールするではないか。

 激昂したブラッグスは一塁に急行し、口角泡を飛ばして抗議したが、米国の審判学校で学び、英語もできる井野塁審は、すぐさま暴言で退場を宣告した。

「日本語で“くそったれ”という意味のことを言ってきたので退場にした。ルール上、ハーフスイングの判定が塁審に委ねられたときの判断は最終決定で、抗議は許されていない」(井野塁審)。

 ここまでなら単なるハーフスイング判定をめぐっての退場劇だったのだが、そのあとがいけない。ヤケクソになったブラッグスは、ベンチに戻ると、井野塁審目がけてバットやレガースなどを次々に投げつけ、厳重戒告と制裁金50万円という重い処分を受ける羽目に。

 ふだんおとなしい人ほど怒ると怖いといわれるが、ブラッグスの豹変ぶりは超ド級もの。4年間で通算打率3割、91本塁打の好成績を残したことよりも、“伝説の乱闘王”として記憶しているファンのほうが多いはずだ。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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