ビジネスの現場だけでなく、私たちは日常生活のなかで、たくさんの「交渉」をしています。訴訟社会のアメリカで、ニューヨーク州弁護士として20年間活躍している大橋弘昌氏も、プライベートで小さな交渉をしながら日々鍛錬を積んでいるそうです。そんな大橋氏が交渉で大事だというのが発言への信頼を失わないこと。だからこそ、嘘は絶対ダメ。ですが、真実を言いすぎるのも不利になります。ここでは、大橋氏が現場で培ってきた交渉術の極意を明かした著書『どんなときも優位な状況をつくれる 負けない交渉術』(朝日新聞出版)から、交渉現場における真実の出し方のコツをお伝えします。

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 交渉において、嘘は、いかなる場合もついてはいけません。

 たとえばX店に行って、「Y店では、同じ製品が1万円安く売っていた」などとは、それが真実でない限り、言うべきではありません。

 それはどうしてでしょうか。もしかしたら、あなたが話をしているX店の店員は、Y店の売値を正確に把握しているかもしれないのです。

 あなたが言ったことが真実でないとわかれば、それ以降、あなたが何を言おうと説得力がなくなってしまいます。交渉は言葉のやりとり。その言葉が真実でなければ、そこから先は、交渉が成り立たなくなります。そもそも相手にされなくなるでしょう。

 交渉はゲームなのです。ゲームはルールにしたがって行わなくてはいけません。嘘をつくのはルール違反なのです。

 このように交渉中に嘘を言ってはいけないのですが、かといって本当のことを何でも話すべきかといえば、決してそうではありません。

 私が以前にニューヨークの郊外に住んでいた時の話です。家のディッシュ・ウォッシャー、つまり食器洗浄機が壊れてしまいました。それはある日曜日の午後のことで、水漏れが発生し、台所が水浸しになってしまったのです。

 買った家に据え付けられていた古いタイプのものでしたから、修理をしてもまた故障するかもしれません。当時小さい子どもが3人いたわが家にとっては必需品です。慌てて大型電器店に、新しいものを買いに行くことにしました。

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食洗機を安く買うための交渉術とは?