林家木久扇さん(撮影/写真部・高野楓菜)
林家木久扇さん(撮影/写真部・高野楓菜)
木久扇さんと長男の林家木久さん (撮影/写真部・高野楓菜)
木久扇さんと長男の林家木久さん (撮影/写真部・高野楓菜)

 昨年、落語家人生60年を迎えた、「笑点」でもおなじみの林家木久扇さん。2014年に喉頭がんを患い、約2カ月間仕事を休んだことを覚えているだろうか。がん闘病について長男で弟子でもある林家木久蔵さんと対談した。現在発売中の『手術数でわかるいい病院2021』から紹介する。

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――喉頭がんの治療は放射線治療を選ばれたんですね。

木久扇 ステージ2の初期で見つけられたから、声帯を切る手術はしなくてよかったんです。商売道具の声を残せて、よかったと思いました。約40日間通院して、放射線を首の左右に当てるの、17秒ずつ。全部で3分で終わっちゃう治療。でも、合併症で、声が出なくなっちゃったんです。

木久蔵 幸い、がんは治せたけど、声が出ない。先生にきいても、いつ声が戻ってくるかは個人差があるので、わからないって言われました。

木久扇 いやもう、深刻でしたね。声が出ない、ここで芸能生活終わり、ここまでか。それに、弟子が11人いるから、家族も合わせて17人養っていかなくちゃいけない。不安とか焦りどころか、絶望しかなかった。

木久蔵 病院で声のリハビリとかもなかったんですよ。

木久扇 それが、僕の復帰を祝って、ある番組に出演させてもらうことになってたの、親子で。その収録の前の日にね、声が出たんですよ。朝、「おはよう」って僕が起きてきたら、かみさんが、「お父さん、いまなんつった?」「だからおはようって」。あ! 声が出てる! お掃除している弟子を呼んで、「師匠、声が出たのよ!」。あとでかみさんが「私、結婚以来こんなうれしかったことないわよ」って涙ぐんで言ってました。すごい奇跡というか、ほんとに不思議だった。

■家族だってジェットコースター状態

――ご家族は、がんを宣告されたときはどうでしたか。

木久蔵 周囲が深刻になりすぎると、本人がネガティブになるんじゃないかって、そういうことあるでしょ、だからできるだけ陽気にしていよう、って思ったんですけど、家族は家族でたいへんでした。がんは大きさじゃなくて、深さ、どこまで深くいってるかだと聞かされて、深いと声帯を切ることになります。それを聞いてどーんと(気分が)落ちるじゃないですか。でも声帯は切らなくて良さそうですね、ですーっと上がって、手術しなくてもすみそうです、でもっと上がって。そうしたら放射線治療の効果が出るかどうかわからないって言われてまた下がって。いちいちメンタルが上がったり下がったり……。その起伏がすごいですよ。見えない先の先まで悩んだり考えたりしました。それに僕は落語家で、お客様に喜んでもらう商売なのに、自分がこんな状態じゃあ人を喜ばせるようなこと、できない。

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笑点の空席を見て「絶対にあそこに戻る」