嘴平伊之助(画像はコミックス7巻のカバーより)
嘴平伊之助(画像はコミックス7巻のカバーより)

鬼滅の刃』には、「親を失った子ども」が数多く登場する。生まれてすぐに親に捨てられた子、親から十分に愛情を与えられなかった子、親を殺された子……。親がいない彼らは、「鬼殺隊」に入隊し、かたき討ちをこころざす場合もあれば、生き抜くために「鬼」になるケースもあり、それぞれが苦難の道を歩んでいる。そんな中「親はいない」と断言していた嘴平伊之助は、鬼との戦闘の中で、幼かった頃の母との記憶を取り戻していく。その手がかりとなったのは、猪のお面の下に隠された伊之助の美しすぎる「顔」だった。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■「異能者」ぞろいの炭治郎の同期たち

『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)には、戦闘力と特殊能力に優れた4人の同期がいる。「雷の呼吸」の使い手・我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)。「花の呼吸」をあやつる栗花落カナヲ(つゆり・かなを)。風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)の実弟・玄弥(げんや)。そして、我流で「獣(けだもの)の呼吸」を作り上げた、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)だ。彼らには全員親がいない。炭治郎は親を鬼に殺され、カナヲは親に売られている。玄弥は父が刺殺され、母は鬼になった後に死亡。善逸と伊之助は親に捨てられた孤児だ。

 そして、彼らはいずれも「異能」の持ち主だった。炭治郎は異常な「嗅覚=鼻」を、善逸は「聴覚=耳」、カナヲは「視覚=目」。玄弥は咬合力と消化力(=口)に優れており「鬼喰い」によって鬼の能力を吸収することができる。伊之助は「皮膚の感覚」で状況を判断できるなど「触覚」が突出している。

■野生児・伊之助の意外な特徴

 その他、伊之助が他の隊士と違う点に、まず外見的特徴があげられる。顔には猪の皮で作った面をかぶり、上半身は裸、腰にも獣皮を巻き付けている。しかし、これらの風貌からは想像がつかないほどに、素顔は整った愛らしい顔立ちをしている。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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胡蝶しのぶに重ねた「母」の面影