■五輪前のワクチン接種は「希望的な観測」だった

――自治体によっては供給されるワクチンが足りず、高齢者用のワクチンを医療従事者に転用している現状があります。どう見ますか

 医療従事者に先に打たないと、高齢者には打てない。例えば、病院では一人の医療従事者が感染すると、濃厚接触者がたくさん出てしまう。現場はチームワークですから。そうすると、みんな休まないといけなくなり、その瞬間に医療が崩壊する。コロナ患者を受け入れている病院で働いている人は、とにかく早く打たないといけない。その人たちが感染すると働く人がいなくなってしまいます。

――それなのになぜ高齢者のワクチン接種が始まっているのですか

 国民に4月から打つと約束していたからでしょう。政治的なメッセージはある。東京五輪前に、「6月までに打つ」と言っていたから。東京五輪前にワクチンを打ってもらうはずだった。そこは希望的な観測ですよね。内閣の中には、悪いシナリオでの分析もあったとは思うが、国民にはそれは言えないですよね。

 昨年、東京五輪を1年延期したとき、客観的に見て、医者として見て、それでも難しいとは思いましたよ。21年にするか、22年にするかという選択はあったと思うが、あのときは安倍総理がいろんなことをお考えになって21年に決した。両方の可能性があり、どちらか悩んだときの決断はトップがやるしかない。それで結果がよければいいのだけれど、難しくなった場合はそのときにベストを尽くすしかない。結果は保証できないから。

――当初のシナリオがうまくいかなかったときに、国民に説明するべきだと思うが

 本当はそうあるべきですね。東京五輪をやるというなら徹底検査でやる、なるべく観客と選手を触れさせないようにやる、関係者は感染を起こさないように毎日検査をやる、とか。

 あと重要なのは、国民に対し、ワクチン接種によって感染者が減っているイギリスやイスラエルのようになれる、というメッセージを発信しないといけませんね。ここから第4波が来ますが、それを乗り切った先に、感染者を抑えた日本の姿があります。

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ワクチン開発にもっと研究開発費を出すべきだった