■「チョボリン」のプロフィール

 海とくらしの史料館のマンボウの巨大剥製は、2004年11月18日、島根県邇摩郡温泉津町(現在は大田市)沖で旋網によって漁獲され、境港に水揚げされた。全長275 cm、体重1150 kg、卵巣重量約36 kg。日本海側で巨大なマンボウが漁獲されることは珍しく、学術的価値も高いことから剥製にして保存しようという流れになり、境港市内の冷凍施設で一旦冷凍された後、剥製化が行われた。制作費用は550万円で、費用は市だけでなく県も一部負担していることから、観光資源として剥製への期待があったことが伺える。剥製は2006年3月18日に海とくらしの史料館で展示公開され、愛称を一般公募して、同年6月に「チョボリン」に決定した。

 漁獲当時はまだウシマンボウの存在が明確になる前で、種同定は形態よりもDNAの方が信頼性が高かったため、私の先輩達によってDNA解析され、明確にマンボウと同定された。その後、剥製になった後に改めて再調査し、マンボウの形態的特徴を持っていることも裏付けられた。

 マンボウの大型個体はスペース的に液浸保存が難しいため、研究に必要なパーツだけがサンプリングされ、残りは破棄されることが多い。そのため、このサイズの剥製は非常に貴重であり、ましてや、DNA解析もされているマンボウの大型剥製標本なんて世界的にも聞いたことがない! この剥製は日本ではもちろんのこと、世界的にも、このサイズのマンボウが実在した証拠を示す重要な標本なのだ。境港を訪問する機会があれば、是非じっくり観察してみて欲しい。

■5月1日~5月10日に開催の「マンボウ展」

 コロナ禍で自粛的なムードが予期されるが……もし、海とくらしの史料館に剥製を見に行きたいと思ったら、期間限定の企画展「マンボウ展」が行われる今年のゴールデンウィーク期間がおススメだ。近年の研究を反映した幅広いマンボウの知識が得られるパネル展示、江戸時代のマンボウの情報を知ることができる展示、私が収録したマンボウクイズ動画など、この期間、同館はマンボウまみれに装飾される。特に5月2日~4日の11時は限定30名で、一口サイズだがマンボウ料理が振る舞われるので、味も体感できてお得だ。

 また、同館には小型のマンボウの剥製、名前だけ似ていて全く別の分類群であるアカマンボウの剥製なども同時に見ることができる。館長は話し好きでフレンドリーなので、何か要望があれば話しかけてみると良いだろう。

【主な参考文献】 
 川上靖・平尾和幸・一澤圭・安藤重敏.2005.島根県温泉津町沖で漁獲された大型マンボウMola molaの記録.鳥取県立博物館研究報告,42: 29-30.
 澤井悦郎・山野上祐介・望月利彦・坂井陽一.2015.日本国内の博物館関連施設に保管されているマンボウ属の大型剥製標本に関する形態学的知見について.茨城県自然博物館研究報告,(18): 65-70.
 朝日新聞.2019.海とくらしの資料館館長 大地 明さん.朝日新聞.2019年5月20日配信.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」 というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やyoutubeで情報発信・収集しつつ、無職で自分に合った仕事を探しながらもなんとかマンボウ研究して生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。