こう話す安河内さんが、「より簡単で入門編に最適」と太鼓判を押すのがマンガ本の英訳だ。小説に比べて文字量が少ない上、セリフがビジュアルとセットとなっているので、どんな場面で使うかも明瞭だ。

「大人気の『鬼滅の刃』の炭治郎の名セリフ『全集中!』は、Total concentration!という英訳に。マンガの場面を見れば、一心不乱に何かする様はtotal concentrationで表現できるのだと、一発で覚えられます」

 マンガの英訳版も数多く読破した安河内さんによると、『北斗の拳』などのアクションものは特に易しく、子ども向けの『ドラえもん』などは中間レベル、『美味しんぼ』といった情報量が一気に多くなる大人向けのマンガがいちばん難しいという。

「難しくてもグルメな人なら、和の食材や味の表現といった食関連の英語にがっつり触れられるので、絶対楽しいはず。マンガの英訳はラインアップも豊富。外国人の読者も多いですから、small talk(雑談)のネタにもぴったりです」

■映像とあわせればリスニングの強化も

 好きなマンガがもし映画化やアニメ化されている場合は、マンガとあわせて映像も絶対に見ておくべきだと安河内さんは主張する。文字にプラスして、音声によるインプットでリスニングも強化でき、一石二鳥だ。

「『君の名は。』はアニメ映画として大ヒットしましたが、ノベライズや漫画化もされ英訳版も出ています。映画→英語の吹き替え→ノベライズ→ノベライズの英訳→マンガ→マンガの英訳というように、異なるメディアを回して学習する方法もあります。とにかく大好きな作品なら英語でも、難なく隅々まで取り組めるはず。まずは楽しみが勝る一冊を見つけて読んでみて。英文に対する抵抗がなくなり、英文を素早く処理する力がつきますよ」

◆安河内哲也(やすこうち・てつや)
上智大学外国語学部英語学科卒。東進ハイスクール・東進ビジネススクールのネットワーク、各種教育関連機関での講演活動を通じて実用英語教育の普及活動に取り組む。最新著書に『英語が話せるようになりたければ、今すぐオンライン英会話をやりなさい!』(NHK出版)がある。

(文/山本航)

※『AERA English 2021 Spring & Summer』より