長崎市の元郵便局長による10億円規模の詐取について会見する日本郵便の根岸一行常務(C)朝日新聞社
長崎市の元郵便局長による10億円規模の詐取について会見する日本郵便の根岸一行常務(C)朝日新聞社

 長崎市の元郵便局長が知人らから多額の現金をだまし取った問題が波紋を広げている。日本郵便とゆうちょ銀行は被害を受けた人は50人、被害額が計10億円を超えると発表した。元局長は社内調査に対し、現金を詐取したことを認め、「遊興費などに使った」と説明し、日本郵便は被害者に損失の全額を補償するという。

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「郵便局には特別の枠で利率の良い預金がある」

 被害者に言葉巧みにこう勧誘したのは、地元で20年以上も局長を務めた60代の男性U氏だ。

「U氏は地元のロータリークラブのメンバーでお父さんも郵便局長だった。面倒見もよくて、まあ、地元の名士ですね」(近所の人)

 日本郵便の社内調査ではU氏の不正は1996年頃から始まった。

 郵便局の特別枠というセールストークで会社経営者や所属している長崎市内のロータリークラブのメンバーから「架空の貯金」を語ってカネを集めていたという。ロータリークラブ関係者はこう話す。

「もう10年前くらいかな。『1000万円ほど預けてくれたら、5年で2倍になる』『絶対に秘密の表に出せない貯金』などと勧誘されました。そりゃ熱心でしたね。私は契約しなかったが、知人はカネを預けました。数年してカネが必要になったので『いま、いくらになっているのか』と問い合わせてもなかなか答えてくれず、困っていた。報道で詐欺をしていたようだと知り、もしかしてあの時、と思い出しましたよ」

 郵便局では30年ほど前に市場金利連動型定期貯金「MMC」というものがあった。メガバンクなどでは、スーパーMMCと呼ばれていた。しかし、金融自由化で自由金利預金、スーパー定期に移行され、MMC貯金は統合された。市場に流通したのは5年ほどの金融商品で、裏を返せば、あまり一般には馴染みがなかったものだった。

「U氏は問題の長崎住吉郵便局に異動する前の郵便局で、白紙のMMC貯金の証書を大量に入手していたようだ。ふつう、金融商品がなくなると回収されるが、うまくすりぬけていたのだろう。あまり流通していなかったMMC貯金の証書なら発覚しにくいと集めたようです。バレそうになっても『特別な人だけにはMMC貯金が残っている』などと言葉巧みに申し向けて、ごまかしていた。しかし、どうしても返金しろという人には、カネを返していたようだ。そのために、また別の人からカネを集めてMMC貯金の証書でごまかすというやり方を繰り返していた」

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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ロータリークラブ役員を悪用