朝起きてから夜寝るまで、一日じゅう補聴器を装用してはや1カ月。1週間ごとに不快な音が気にならなくなり、「脳が順応しているな」と実感できているそうです。

「初めて装用した日の病院からの帰りの車中では、風の音やタイヤの摩擦音が耳に響きましたが、2週間後は気にならなくなり、話し声がしっかり聞こえました。いらない音を遮断して必要な音を拾うように脳が順応し始めたようです」

 難聴状態が続いたことによって、10年近く使われずに休んでいた脳も補聴器を装着するトレーニングで再び活性化。言葉を明瞭に聞き取れるようになってきました。

 誰かの付き添いなしに行けなかったという買い物にも最近は1人で行けるようになったそうです。

「難聴は痛みもなく、自覚症状も耳鳴りだけ。自覚のないまま難聴は進んでいきます。とにかく、『安易に補聴器をお店で買わないで』と言いたい。難聴が重度になる前に、そして、無駄なお金も時間も費やしたくなければ、ぜひ最初に病院を受診してほしいですね」

<川島さんが現在の聞こえを手に入れるまで>

●30代半ばごろ…耳の聞こえが悪くなり始めた
聞こえにくさを自覚し始めたが、病院でCTを撮っても原因はわからず放置。セミやカエルの鳴き声が頭の中で響いているような耳鳴りに悩まされる。

●50歳ごろ…1台目の補聴器を購入
後ろから話しかけられても気づけず、無視しているかのように思われるように。家族のすすめもあって補聴器を検討。眼鏡店で2万円台の1台目を購入。

●51歳ごろ…2台目の補聴器を購入
1台目の補聴器は耳たぶがじんじん痛くなり2時間もつけていられず、電話もできなかったため、有名メーカーの30万円台の補聴器を同じ眼鏡店で購入。

●55歳ごろ…3台目の補聴器を購入
2台目も話し言葉は聞こえず、別の眼鏡店で聴力検査をしたところ、「この補聴器ではもう音域を合わせる幅がない」と言われ、60万円台の補聴器を購入。

●60歳のいま…現在の補聴器で聞こえを取り戻す
3台目も高音域で金属音が響くなどで使えず、病院を受診。言語聴覚士に4台目の補聴器を調整してもらい、トレーニングしながら徐々に聞こえを取り戻している。

(文/石川美香子)
※『「よく聞こえない」ときの耳の本 2021年版』から