各地元記者によれば、この日の前田には制球力と投球メカニックバランスに乱れがあったという。「変化球、特にカーブの制球がうまくいっていなかった」(ライアン記者)。開幕戦のセレモニーや、昨季ノーノー未遂を受けたブリュワーズからの徹底した対策によって、前田のルーティーンには狂いが生じていた。そして3回裏のクリスチャン・イエリッチへの死球によって投球フォームが崩れてしまったという。これは前田本人も自覚しており、試合後の記者会見でもそう語っている。

 それでも、ツインズのロッコ・バルデッリ監督は前田を信じていた。当日、「前田は4回で降板する」と記者席の誰もが予想していた。しかし、前田は続く5回にもマウンドに上がった。「味方のエラーがなければ、5回終了まで前田に託し、勝利投手の権利を与えていたでしょう」と、いかにチームが前田に信頼を置いているかがわかるシーンだったとミラー記者は振り返る。

 チームの目標は、プレーオフを勝ち抜くことだ。ツインズは、2004年以来、18試合連続でポストシーズンで敗北しており、これは米メジャースポーツのワースト記録となっている。そんな不名誉な記録を打ち破るには前田の力が必要不可欠であると、全てのツインズのファンが考えている。

 前田は次回のデトロイト・タイガース戦では、開幕戦での不本意な結果をはねのけるだけの圧倒的なピッチングを示す必要があるだろう。

 パドレスもツインズも常勝チームではないからこそ、近年ようやく巡ってきた千載一遇のチャンスをつかみ取らなければならない。確かに、両投手ともにサイ・ヤング賞、最多勝賞、最優秀防御率などの名誉ある賞を受賞する可能性とそれだけの実力が十分にある。しかし、何よりもチームの勝利に貢献することこそが今の使命と言えるだろう。

 かつてないほど高いレベルの結果が求められる二人。彼らの現在地は、我々の想像をはるかに超える高い位置にある。

(澤良憲/YOSHINORI SAWA)