そしてこの2チームとは対照的な戦い方で頂点をつかみ取ったのが東海大相模だ。1回戦では昨年秋の関東大会の準々決勝で敗れている東海大甲府(山梨)との対戦だったが、先発に起用したのは昨年秋の公式戦でわずか1試合、1イニングしか登板していない石川永稀だった。ちなみに石川は大会直前のメンバー変更でベンチ入りした投手であり、大会公式ガイドブックには名前がなく、メンバーが発表された時は小さなどよめきが起こっていた。

 そして続く2回戦では昨年秋の公式戦に一度も登板していない2年生の求航太郎を起用。結果として石川は8回を1失点、求も4回を無失点と好投を見せ、チームの勝利に大きく貢献した。準々決勝と準決勝は石田が一人で投げ抜いたものの、決勝も石川と求の2人が6回途中まで2失点と試合を作り、石田の負担を小さくすることに成功している。秋までほとんど実績のない投手を大舞台でいきなり抜擢するのはかなり勇気のいることであるが、思い切って決断した門馬敬治監督とその期待に応えた2人の投手の活躍は見事の一言である。

 また東海大相模ほど抜群の投手成績ではなかったが、決勝に進んだ明豊も背番号1の京本眞と背番号10の太田虎次朗が準決勝までの4試合で交互に先発し、背番号11の財原光優もその4試合中3試合に登板している。苦しい展開の試合も多かったが、1人の投手に負担をかけずに上手く勝ち進んだ好例と言えるだろう。

 トーナメントは負けたら終わりであり、先を考えた戦い方よりも目の前の試合に勝つことを第一優先で考えるというのがセオリーではあるが、打者のレベルや分析力が上がっている現代では1人の投手に最初から最後まで頼り切って優勝できる時代ではないことは明らかである。

 絶対的なエースにとっては負担の軽減、エースではない投手にとっては大舞台を経験できるという意味で、思い切った抜擢はどちらの投手にとってもプラスの面は大きいはずである。選手の将来を考えても、今大会の東海大相模のような起用法が今後増えていくことを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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