そして、9回1死、シングルヒットが出れば、79年の箕島・北野敏史以来、21年ぶりのサイクル安打達成という場面で、右中間に鋭い当たりを飛ばした。

 スタンドのファンは「よくやった!」と快挙達成を喜んだが、直後、清水は迷うことなく一塁ベースを蹴ると、二塁へ。「本塁打を打ったあと、チームメイトから『ヒットを打てばサイクルだな』と言われて気づいた。でも、記録よりチームの勝利が優先です。二塁打もうれしかったですよ」。

 結果的に“サイクルスルー”の二塁打が生き、この回、明徳義塾はダメ押しの3点を加えて、勝利を不動にした。

 ちなみに第1号の北野も、三塁を欲張ってタッチアウトになったことから、二塁打が記録され、結果的にサイクル達成になったというもの。高校球児にとって、サイクルは狙ってまで欲しい“勲章”ではないようだ。

 対戦した両チームの投手が揃って球史に残る珍記録を達成したのが、18年の2回戦、彦根東vs花巻東だ。

 彦根東のエース左腕・増居翔太は、キレのある直球と変化球を投げ分け、5回まで1人の走者も許さない。6回2死から初めて四球の走者を許したが、9回まで無安打14奪三振4四球無失点で投げ切った。

 ここで試合終了なら、04年の東北・ダルビッシュ有(現パドレス)以来、14年ぶりのノーヒットノーラン達成となるところだが、味方打線も2つの併殺や守備妨害でチャンスを潰すなど、初回からゼロ行進。9回2死一、三塁のチャンスも生かせず、とうとう0対0のまま延長戦へ。

 そして10回、増居は先頭の4番・紺野留斗に右前安打を許し、ついに無安打記録がストップ。さらに四球と安打で無死満塁のピンチを招いたあと、中犠飛で無念のサヨナラ負けに泣いた。

 9回までノーヒットノーランに抑えながら延長戦で敗れたのは、09年のPL学園・中野隆之以来、史上2人目だった。

 悲運のエースは「最後の最後に打たれて点を取られたのは、弱さが出た。ノーヒットはかなり序盤から気づいていたが、いつかは打たれるだろうなと思っていた。今日の自分は出来過ぎ。いつかどこかで落とし穴があるかなと……。もう一度鍛え直す」と冷静に振り返った。

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完投してないのに完封?