完投していないのに完封勝利を挙げた花巻東・伊藤翼 (c)朝日新聞社
完投していないのに完封勝利を挙げた花巻東・伊藤翼 (c)朝日新聞社

 エースが1試合で先発、中継ぎ、抑えの一人三役を務める珍事が起きたのが、2007年の2回戦、広陵vs北陽だ。

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 広陵のエース・野村祐輔(現広島)は、先発して6回を2安打6奪三振の無失点と付け入る隙を与えない。そして、5対0とリードした7回、背番号10の左腕・上本健太にマウンドを譲り、ファーストに入った。

 点差に余裕があり、控え投手の登板志願のリクエストに中井哲之監督が応えた形だが、この温情が裏目に出る。上本健は2本の三塁打を浴びるなど、1点を失い、なおも2死一、三塁のピンチ。継投で流れがガラリと変わってしまうのが野球の怖さだが、ファーストに野村が残っていたことが幸いする。中継ぎとして再登板した野村は、内野安打で2点目を許したものの、何とか後続を断ち切った。

 野村は8回も3者連続三振と好調を持続も、3点リードの9回から再びファーストに戻り、今度は背番号15の2年生右腕・野林廉(中田、現広島)がマウンドに上がった。

 ところが、この継投も誤算。野林はいきなり連続長短打を浴び、無死一、三塁のピンチを招いてしまう。一発出れば一挙同点という事態に、「ここはオレがやらねば」と“守護神”野村が3度目の登板。次打者の犠飛で1点を失ったが、落ち着いて後続2者を打ち取り、5対3で逃げ切った。

 エースの責任をはたした野村は「2度とも自分から(志願して)マウンドへ行った。1試合で3度も投げたのは初めて」とホッとした様子。中井監督も「2人の投手の“出してくれ”の直訴に起用したが、結果には反省。野村がよく投げた」と2度の継投ミスを救ってくれたエースに感謝するばかりだった。

 センバツ史上2人目のサイクル安打を達成したのに、二塁まで進んだことから、せっかくの快挙を自らフイにしてしまったのが、00年の明徳義塾・清水信任だ。

 1回戦の上宮太子戦。3番を打つ清水は、初回1死一塁で、大会屈指の本格派右腕・亀井義行(善行、現巨人)から先制の右越え三塁打。5回にも先頭打者として追加点の足掛かりとなる右越え二塁打を放ち、1点差に追い上げられた7回には、右翼席に貴重な2ランを叩き込んだ。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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