ゲーム理論を専攻するマイケル・チェ米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授は2月下旬に声明を発表し、「ラムザイヤー氏の論文は経済学の用語を用いて根拠のない歴史的主張をしている」として「強い懸念」を表明。「残虐行為を正当化するためゲーム理論や法学・経済学が使われている」として論文を非難し、撤回を求めるよう呼びかけた。3月中旬までにノーベル経済学賞受賞者を含む米・英・豪・韓など各国の経済学者や法学者ら3400人が賛同署名し、日本からも東京大や一橋大、上智大、立教大などの研究者が参加している。

 賛同署名した一人である経済学者の竹内幹・一橋大准教授は2月25日、「Yahoo!ニュース」サイトに「『慰安婦は自発的契約』とゲーム理論っぽく主張したハーバード大学教授の論文。ゲーム理論家たちが猛抗議」と題する記事を掲載。「人身売買や児童買春なども“自発的な契約”であると主張し、太平洋戦争中の“慰安婦”も自発的であったと主張したいがために、ゲーム理論の名を借りたラムザイヤー論文に、多くの経済学者が強い懸念と違和感(あるいは怒り)を示している」とまとめている。

 相次ぐ批判に対し、慰安婦の強制連行を否認する立場の西岡力・麗沢大客員教授や高橋史朗・麗沢大特任教授ら6人は2月8日に公開書簡を発表。「ラムザイヤー氏は日本語に堪能で、論文は幅広い資料に根ざした称賛に値する成果。学術的にも外交的にも主流の範囲内」と擁護した。西岡氏は3月8日、米UCLAのチェ教授声明に反論し「性奴隷説は学界の一つの説に過ぎない。軍による強制連行はなかった」と述べ、ラムザイヤー氏論文への撤回要求を取り下げるよう求めた。韓国では『反日種族主義』共著者の李栄薫・元ソウル大教授らが同9日、論文を批判する韓国メディアの報道を「魔女狩り」、米国の韓国系学生らによる論文撤回を求める動きを「反学問的妄動」と批判する声明を発表している。

 学術誌編集部はサイト上で「論文の歴史資料に関する懸念が示され、審査している」と表明している。

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