週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から得た回答結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。また、実際の患者を想定し、その患者がたどる治療選択について、専門の医師に取材してどのような基準で判断をしていくのか解説記事を掲載している。ここでは、「人工透析(腹膜透析)」の解説を紹介する。

【図】人工透析の治療の選択の流れはこちら

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 慢性腎臓病(CKD)は腎機能が慢性的に低下していく病気の総称だ。糖尿病、高血圧、慢性腎炎などが原因で発症し、約1330万人の患者がいると推計されている。

 慢性腎臓病が重症化し、末期腎不全になり、正常な機能の15%以下になると尿毒症などの症状が徐々にあらわれてくる。さらに機能が低下すると命にかかわるため、自分の腎臓の代わりとなる腎代替療法と呼ばれる治療が必要になる。

 腎代替療法には、大きく「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」の3つがある。血液透析は腕に作ったシャント(血液の取り出し口と送り出し口)を作って血液をからだの外に出し、人工腎臓(透析器)を通して尿毒素や過剰な水分を取り除き、再びからだの中に戻す治療だ。

 腹膜透析(PD)は自分の腹膜を透析膜として利用し、透析をおこなう方法。

 腎移植はドナーから提供された腎臓を移植する治療で、亡くなった人から提供を受ける「献腎移植」と生きている人から片側の腎臓の提供を受ける「生体腎移植」がある。

 3つの腎代替療法は等しく効果があるが、現在は血液透析(HD)を選ぶ患者が圧倒的に多い(人工透析のうち97%)。血液透析の歴史が長く、透析施設が多いことがあるほか、腹膜透析に詳しい医師が少なく、腎移植も含めた血液透析以外の療法について患者や家族に十分に情報提供がされていないことが大きな理由と言われている。

 こうした背景から、近年は専門外来などを設置して的確に腎代替療法の説明をし、患者が最適な治療を選択できるようにする仕組みが強化されてきている。

 末期腎不全になると、極度の腎機能の低下により尿量が減り、からだの毒素が排泄できなくなる。心不全など命にかかわる合併症も起こりやすくなるため、自分の腎臓の代わりになる腎代替療法の準備を始める時期だ。腎代替療法は、血液透析(HD)、腹膜透析(PD)、腎移植の三つから患者が選ぶ。

 療法選択のポイントは腎代替療法が日常生活に入ってきたとき、どのような影響を受けるのかを考えること。不安な点も含め、納得するまで主治医やスタッフとよく話し合うことが大事といえる。関連学会ではこうした腎代替療法の選択を、「SDM」(キーワード参照)の枠組みに沿って進めることを推奨している。

「納得して選択をすると、患者さんは前向きに治療に取り組むようになる。結果、病状も安定し、予後もいい傾向にある」

 というのが、今回話を聞いた両医師の共通した見解だ。

■日常生活で受ける影響を十分に考えて選択すべき

 チャートでは、3つの腎代替療法のうちPDを選んだ。この選択について、小倉記念病院の金井英俊医師はこう言う。

「3つの療法は等しく効果が期待できるので、どれを選んでもよいでしょう。ただし、ステージ5でもまだ、腎臓の機能が保たれており、尿が出ている場合は時間をかけて透析をおこなうPDのほうが生命予後はいい、という報告があります」

 PDはHDに比べ、食事制限もゆるやかだ。在宅でできることからコロナ禍で外出を控えたい人にも向いている。

地震などでインフラが壊れた場合も、透析液があればどこでもできるのがPDのメリットです」(金井医師)

 聖路加国際病院の中山昌明医師はこう言う。

「コロナについては、血液透析の施設でも感染対策が徹底されています。夕方から夜間帯におこなう『夜間透析』、深夜から朝までの『オーバーナイト透析』もあり、若い患者さんがHDを希望することもあります」

 自宅で自らHDをおこなう「家庭透析」もある。また、「家族に負担をかけたくない」という理由からHDを選ぶ患者もいるという。

 さらに高齢患者の中には透析を希望せず「自然死を受け入れたい」という人もいる。

「天寿に近い状況の場合、ご家族を交えて繰り返し意思を確認し、強い意思が明らかな場合は緩和治療を選択する結果になることもあります。そのような場合でも、希望すればいつでも腎代替療法を選択できることを念押ししています」(中山医師)

■PDで4~5年経過したら次の療法を考える時期

 PDには日中に自分で透析バッグを交換する連続携行式腹膜透析(CAPD)と、睡眠前にバッグをセットすると機械が自動的に交換してくれる自動腹膜透析(APD)がある。今回は、日中の頻回な交換は難しいということで、APDを選択したケースを見ていこう。

「最近はAPDを選ぶ患者さんが圧倒的に多いです。APDには遠隔システムが搭載された装置もあります。患者さんの装置と病院のパソコンがオンラインでつながっているので、医師が画面を開けば透析の状況がチェックできる。患者さんやご家族は『見守られている』という安心感があるようです」(金井医師)

 ただし、APDだけで安定して維持できるのは治療後平均1~2年。腎機能が低下してくるとCAPDを追加する必要が出てくることも知っておきたい。さらにPD単独で安定した治療を継続できるのは平均4~5年で、その後の腎代替療法をどうするかを考える時期がくる。

 その場合の選択肢には、PDに週1回の血液透析を併用する方法と、完全にHDに切り替える方法がある。また、この段階で腎移植を受けることも可能だ。

 ランキングの一部は特設サイトで無料公開しているので参考にしてほしい。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

【医師との会話に役立つキーワード】

《SDM》
シェアード・ディシジョン・メイキングの略。医療者と患者がエビデンス(科学的な根拠)を共有して一緒に治療方針を決定することで「共同の意思決定」と訳される。治療の選択肢が複数ある腎代替療法を決める場合、SDMが必須と言われている。

《PDファースト》
尿が出ており、腎機能が維持できている場合、まずPDから始め、メリットを十分に生かした後にHDなどへ移行する治療選択。終末期に緩和治療としてPDを導入する「PDラスト」もあり、いずれも患者の医学的利益を重視している考え方。

【取材した医師】
小倉記念病院 副院長・腎臓内科部長 金井英俊医師
聖路加国際病院 腎センターセンター長 中山昌明医師

(文/狩生聖子)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より