思えば前回、ヤクルトが2年連続最下位に終わった2014年オフも、球団には強い危機感があった。それがFAで成瀬善久(現BCリーグ栃木)、大引啓次と2人のFA選手を獲得するという、前例のない補強となって表れた。その結果、翌2015年は真中満新監督の下で14年ぶりのリーグ優勝。異例の補強が球団の“本気”として選手に伝わり、士気を大いに高めたこともあるが、それだけで優勝できたわけではない。

 ものをいったのは、計算外のいくつものプラスアルファだ。例えば、投手陣では外国人トリオによる鉄壁の勝利の方程式。これは、前年は故障に泣いた抑えのトニー・バーネットが復調し、開幕ローテーションに入っていたオーランド・ロマンがチーム事情により中継ぎに回ったことで、来日1年目のローガン・オンドルセクを交えて構築されたものであり、その盤石ぶりは誰も予想できないものだった。

 先発陣では前年の途中でソフトバンクから移籍してきたアンダーハンドの山中浩史が、交流戦でプロ初勝利を挙げると、そこからあれよあれよという間に6連勝。夏場にトミー・ジョン手術から復活した館山昌平(現楽天二軍コーチ)も6勝を挙げて救世主的存在となるのだが、いずれも開幕の時点では計算になかったことだ。

 今シーズンは前述の内川、田口らの加入である程度は戦う態勢が整ったものの、「計算」できる部分だけで考えれば、とても優勝を狙えるとは言い難い。やはり、そこにプラスアルファがいくつ加わるかだ。

 先発陣でいえば、期待されるのは開幕3戦目となる3月28日の阪神戦(神宮)での先発が決まった高卒2年目の奥川恭伸。一昨年のドラフトで、3球団競合の末に高津監督によって引き当てられた右腕は、オープン戦3試合目の先発となった21日の西武戦(メットライフ)でも球数制限により5回途中で交代を告げられるなど、まだ育成段階にある。

 そこは高津監督も「シーズン中に球数、イニング数を増やしていけたらいいのかなと思っています。成長させることであったり、育成することであったり、いろんな意味のこもった(シーズン)最初の登板であり、2021年のシーズンだと思っています」と話しているように、球団としては一軍で経験を積ませながら育成していく方針。注目はその中で奥川がどれだけ成長し、チームにどれだけのプラスアルファをもたらすかだ。

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野手の新戦力候補は…