人工股関節置換術は、入院期間が約1~2週間で社会復帰が早い。また、技術の革新で摩耗しにくくなり、以前は10年ほどで再置換が必要になっていた人工関節の耐久年数が延びている。

「20年以上先の再置換を不安に思うよりも、明日の痛みを解決しましょうと、患者さんにお話ししています」(中島医師)

 人工股関節は、股関節の動きが悪くなってから手術すると、可動域が改善せず、日常生活で不自由が残ることがあるという。日産厚生会玉川病院の松原正明医師はこう話す。

「正しい診断のもと、適切な時期に、精度の高い手術を受けることが重要です」

 股関節の痛みは、両側に起きている患者も多い。病院によっては、両側同時手術をおこなっているところもある。

「片側だけ手術すれば反対の痛みも軽くなる人もいますが、病状によっては両側同時に手術したほうがよい人もいます。経過観察も左右一緒におこなえます」(松原医師)

■若者は関節温存を優先、骨切り術は専門医に相談を

 一方、骨切り術は、病期が前~初期の20~50代の患者の場合、選択すべき手術だという。技術と経験が必要なため、実施している病院は多くない。

「人工股関節置換術よりも長いリハビリが必要ですが、関節を温存できるため、リハビリ後は動作の制限がないなど、大きなメリットがあります。関節温存と人工関節の両方の手術ができる医師に相談することがすすめられます」(中島医師)

 ただし、進行期以降では、判断は難しくなる。

「骨切り術をおこなっても、痛みが取れて動きがいい時期が5年くらいしかもたないと考えられれば、若くても人工関節がすすめられます」(松原医師)

 人工股関節は、摩耗や脱臼などの術後合併症が起きた場合に、新しい人工関節に入れ替える「再置換術」が必要になる。合併症を防いで人工関節を長持ちさせるためには、正確な位置・角度に設置することが重要になる。最近では手術の精度を上げるため、CT画像による3次元術前計画、術中ナビゲーションやロボットを導入する病院も増えている。

 きちんとした手術をする病院は脱臼の発生率が低くなります。また、術後も長期的に、人工関節に不具合がないかを確認していく必要があります」(中島医師)

 ランキングの一部は特設サイトで無料公開しているので参考にしてほしい。「手術数でわかるいい病院https://dot.asahi.com/goodhospital/

【医師との会話に役立つキーワード】

《インプラント》
人工関節のこと。骨盤側のカップ、軟骨に替わるライナー、大腿骨側のヘッドとステムからなる。最近、素材の進化により、摩耗が起こりにくい、耐久年数の長い製品が使われるようになった。個々の患者に合ったサイズや形状のインプラントが選ばれる。

《人工関節の脱臼》
人工関節がはずれる「脱臼」は、術後の合併症の一つ。最近では、手術法の工夫や、人工関節を正確な位置に設置する技術の進歩により、脱臼は起こりにくくなった。術後早期は、股関節をひねる、深く曲げるなどの動作は避ける必要がある場合もある。

【取材した医師】
九州大学病院 整形外科教授 中島康晴医師
日産厚生会玉川病院 副院長・股関節センター長 松原正明医師

(文/坂井由美)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より