■解放された里香と憂太の今後

 この戦いによって、憂太は「自分が人を殺す」ことを受け入れてしまった。特にためらいもなく、冷静なままで。

 0巻のラストシーンでは、憂太の「左手の薬指」には、里香の指輪がはめられたままになっていた。「指輪」は憂太と里香をつなぐ唯一の証だったはずだ。しかし、憂太の再登場後、ジャンプ本誌・第141話までは「指輪」の描写はない。

 本当に里香との恋は「純愛」だったのか。人間を殺すことをためらわず、戦闘を重ねる彼を、今も里香は愛し続けているのだろうか。もしかしたら、彼のかたわらにいるのは、今はもう別の「リカ」なのかもしれない。謎多き乙骨憂太が今後の展開にどう影響してくるのか、興味が尽きない。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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