作家の下川裕治さん
作家の下川裕治さん
シアヌークビル駅。感染拡大を受け、シアヌークビルへの往来は禁止された
シアヌークビル駅。感染拡大を受け、シアヌークビルへの往来は禁止された

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第44回は、カンボジアにおいて中国人の新型コロナウイルスの感染者が増えている背景について。現地の情報から推察する。

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 カンボジアで中国人の新型コロナ感染者が増えている。現地の報道によると、3月4日、南部のシアヌークビルでは18人の感染者がみつかった。その内訳は、中国人12人、カンボジア人5人、ベトナム人1人。

 カンボジアでは首都のプノンペンやシアヌークビルを中心に、連日、2桁の新規感染者が公表されているが、その半分以上は中国人だ。

「隔離ホテルから脱走した中国人が感染を広めている」

 多くのカンボジア人がそう思っている。

 カンボジア政府は、入国した外国人に14日間のホテル隔離を義務づけている。これはホテルの部屋から原則、一歩も出ることはできない。食事はドアの前に置かれる。どの国の隔離も大筋同じなのだが、カンボジアでは、一部の中国人は、ホテルに賄賂を渡し抜け出してしまうらしい。

 2月末には、プノンペンのクラブを発生源にするクラスターが起きた。そこには隔離ホテルから抜け出した中国人4人が出入りしていたという。

 3月初旬には、隔離ホテルから抜け出した中国人男女8人が検問で捕まっている。

 中国はカンボジアに多くの支援を行っている。道路や橋などの公共事業、工業団地の建設……。カンボジアの経済成長は中国抜きでは語れない状況だ。プノンペンやシアヌークビル、シェムリアップといった主要都市の繁華街では中国語の看板が続く。

 以前、シアヌークビルの駅近くにあったホテルに泊まった。近くで食事でもと思ったが、周辺にある飲食店はすべて中国人向けで、メニューも中国語だけ。スタッフも全員中国人でだった。英語を理解してもらえず、筆談でなんとか注文した記憶がある。中国の地方都市に迷い込んだような感覚だった。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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