大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 医師は患者に治療法の選択肢をすべて挙げ、期待される効果とリスクをすべて説明する。こんなインフォームド・コンセントでは、患者はどう決めていいのかわかりません。最近は、患者がより良い意思決定ができるように新しい概念が注目されています。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が解説します。

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 ほくろのがんと呼ばれる悪性黒色腫(メラノーマ)は私の専門分野のひとつです。悪性黒色腫の治療は近年目覚ましい進歩を遂げ、多くの治療法が利用可能となりました。例えば、がんを手術で取りきった後、再発しないように行う抗がん剤治療。これをアジュバント療法と呼ぶのですが、悪性黒色腫では有効なアジュバント療法が大きく2種類登場しています。

 ひとつは2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した免疫療法である抗PD-1抗体。オプジーボやキイトルーダという薬品名で使われています。もう一つが、分子標的薬と呼ばれるタフィンラー、メキニストという薬の併用療法。

 これら二つは作用ポイントが全く違いますが、ともにエビデンスレベルの高い研究で再発抑制効果を認めています。

 さて、仮にみなさんが悪性黒色腫の手術が終わったばかりの状態とします。担当の医師から、「再発を防ぐために抗がん剤治療をしましょう」との説明を受け、上記二つの治療法の詳しい話を聞いたとしましょう。

「ノーベル賞を取ったほうのお薬は点滴で、もう一方は飲み薬です。両方とも効果はだいたい同じくらい。1年間治療してもらいます。副作用に関してはこの紙に書いてあるようなものがそれぞれあります。今月中には治療を開始したいので家族と話し合ってどうするか決めてきてください」と。

 話を聞いたみなさんの中には、

 うーん、どちらがいいか自分たちでは決められない、

 と思う人もいませんか?

 詳しい説明だけ受けても、自分に合った治療法はどっちか判断をしかねるものです。

 上記の説明方法は、医師が考える一般的なインフォームド・コンセントです。医師は患者に病状や治療法を説明するようにと、医療法に記載されています。したがって、治療法の選択肢をすべて挙げ、期待される効果とリスクをすべて説明する。

 しかしこの方法、好ましくないインフォームド・コンセントと考えられています。

 選択肢だけ提示して決断は患者さん任せ。「松竹梅方式インフォームド・コンセント」と呼ばれるものです。

 また、医者が「こっちの治療法のほうが良いはずだから」と患者さんの意思に関わらず決めてしまう「パターナリズム」も良くありません。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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