俳優、脚本家の佐藤二朗さん
俳優、脚本家の佐藤二朗さん

 個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は、役者は肉体労働と言う佐藤さんが経験した寒い現場と暑い現場について。

【写真】現場が「消失」したドラマといえば…

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 寒さに弱く、暑さに弱い、面倒体質の俺である。

 10年くらい前の冬、あまりに寒くて、衣装さんにカイロ(エジプトの首都じゃないよ、暖かくなるやつだよ)を体中に15枚ほど貼ってもらって撮影にのぞんだが、場所が野球場だったため、撮影が始まる前に上地雄輔とノックやキャッチボールをして遊びまわり、全身から汗が噴き出し、まだセリフを一言も喋ってないのに15枚のカイロを全部衣装さんに剥がしてもらい、わりと大きめの舌打ちをされましたごめんなさい当時の衣装さん。

 汗かきなのは、中年にふさわしい怠惰な肉体を誇る現在に始まったことではない。小学生の頃から異様に汗かきだった。

 20代の頃、今はなき新宿のシアタートップスという小さな劇場に出た時のこと。その小屋は楽屋が奈落の下にあり、舞台に出るためには、狭い梯子をよじ登っていかなくてはいけないのだが、僕はそれだけで汗だくになり、舞台に登場する時には既にいきなり汗だくという、お客さんからしたら「あの俳優はまだセリフを一言も喋ってないのに、なんであんなに汗だくなんだ」と思わざるをえなかっただろうごめんなさい当時のお客さん。

 当時の衣装さんやお客さんに謝ってばかりもいられない。体質は関係なく、冬でも夏の衣装、夏でも冬の衣装を着込まなければならない時があるのが肉体労働の役者というものだ。

 ここで、僕のこれまでの役者人生において、最も暑かった、最も寒かった作品をご紹介したい。ん?これ、前にも書いたかな?書いたかも。書いてたらごめんなさい。でも書かせて。お願い。それくらい、何度でも書きたいくらい、凄まじく暑かった、寒かった、ということなのですよ。

 映画「幸福のアリバイ~Picture~」。2016年の作品です。オムニバスのうち、僕が出演したのは、「葬式」という作品。ロケ地は栃木の足利。真夏。日本家屋。空調なし。喪服。日中に撮影したのですが、設定は夜なので窓のすべてに暗幕(まあ要するに黒い幕ですな)を張り詰め、一切の風通しなし。

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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