修繕が必要な箇所が見つかると、即座に工事内容の検討と精査が行われ、施工業者が選定される。もちろん、ガチの相見積もりだ。

 あるいは、セキュリティーや管理システムの強化のために日々設備内容が見直される。必要が生じれば新しい設備が導入されたり、更新が行われたりする。

 その管理組合ではイベント的な大規模修繕工事は行わず、日々必要な箇所に必要な補修を行っているので、不具合がほとんど生じない。工事はすべて可能な限りの低コストで行われるので、管理組合の財務内容は年々豊かになっている。

 仮に大きな地震などで建物が大きな損傷を受けたとしても、追加徴収なしでほとんどの補修工事を行えるレベルに達しているのだ。

 そのマンションで10年以上理事長を務めている男性はこう話す。

「最初から大規模修繕ありきではなく、劣化の診断を行い、現状把握と将来予測を行い、修繕の範囲と時期を定める。いわば先進企業で導入されているOODAループ(観察、方向付け、意思決定、行動)を採用。われわれは『大規模修繕』とは言わずに『適正修繕』と呼ぶことにします」

 大規模修繕工事というのは、建物の劣化で生じる一つひとつの問題に対して的確に対処する能力がない管理組合向けの、いわば「パッケージプラン」なのである。

 さらに言えば、国交省とマンション管理業界がグルになって仕掛けている幻想みたいなものである。多くのマンションが大規模修繕工事を行うことで管理会社が潤えば、国交省の役人たちも天下りの恩恵にあずかれるかもしれない……というわけだ。

 ただし、マンションにはある周期で必ず取り換えなけばならない設備がある。

 その代表的なものは、配管類である。使用頻度にもよるが上下水道の配管類は20年から30年で交換した方がいい。エレベーターも25年から30年で更新が必要だろう。

 そういった必要な更新は個別に行えばよいわけで、大規模修繕工事という名のもとにまとめる必要はないし、それによって割安になることもほとんどない。むしろ現状を見ると、前述のように割高になっているケースがほとんどである。

 以上のような現実を踏まえると、どこかの管理会社が「大規模修繕の周期を12年から18年に延ばす手法を開発」などというのは、私からみればとんだお笑い草なのだ。(文=住宅ジャーナリスト・榊淳司)