「毎日一緒にいるような人じゃなければ、よほど内容に矛盾がない限り、話がおかしいとは思いませんよね。結果、障害になかなか気づいてもらえないのです」(長谷川氏)

 この他、映画やドラマはストーリーが記憶できず楽しめないが、お笑いならギャグが一瞬だから笑うことができる人。会話は普通にできて一見して障害があるように見えないのに、自分の左側にいる人や物に気づくことができない人。怒りの感情のコントロールが難しくなり、歩道に放置してある自転車は蹴ってしまうが、駐輪場に止めてある自転車は決して蹴らない人……などいろいろな事例がある。

 説明しきれないほどさまざまな障害の例があり、家族に大きな負担がかかっているケースもあるという。

「高次脳機能障害を知らない人には、誤解を招いてしまうことが少なくありません。ただ、個人差はあるものの、障害はゆっくりと改善していきます。自転車を蹴ってしまう人はトラブルを避けるため外出を控えることがありましたが、数年で改善してさまざまな活動に参加するようになりました。難しい障害ですが、周囲の人は当事者が上手にできない部分に協力しつつ、少しずつ改善していく姿を見守ってあげてほしいと思います」(長谷川氏)

 小室の言動に疑問を投げかけるのそれぞれの考えだとしても、高次脳機能障害について、知らない人が本当か嘘かと簡単に論じられる話ではないことも、ひとつの事実だろう。

(取材・文=AERAdot.編集部 國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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