「ご遺族の夢の話は、亡くなった方が生きているようなリアリティがあり、学生の発表を聞くときは、何度も『それは夢の話なの?現実なの?』と確認しなければなりませんでした」

■夢を通した死者からの支えが生きる力に

 なぜ大切な人との別れを経験すると、夢の助けが必要になるのだろう。金菱さんはこう分析している。

「夢には、悲しみや悔しさを癒やしたり、遺された人を支えてくれたりする力があるのではないでしょうか。それもイタコやシャーマンのような他者を必要とせず、自分のなかで、亡くなった人の助けを借りながら、別れの儀式を行うために必要な存在にもなっているのだと思います」

 今年、金菱さんは河北新報社と共同で、家族を亡くしたり、行方不明になったりしている人たちにアンケート調査をした。「故人をどんなときに感じるか」という質問では、「夢」と答えた人も少なくなかった。

「夢の話を何度か伺うと、心境の変化を感じることもあります。つらい夢が多かった人が、ご遺体が見つかったり、葬儀を済ませたり、7回忌という節目を迎えたりすると、幸福感の混じった夢に変化してくることがあるのです。たとえば、亡くなった家族が今も一緒に暮らしているような夢です。そういうお話しを聞くと、『だいぶ落ち着いてきたのかな』と感じますね」

 とはいえ、つらい夢を見なくなったからよいわけでもない。夢の中であっても愛しい家族と会う回数が減ることは、淋しさが伴う。

 また、行方不明者がいる家族は、亡くなったことを受け入れられず、希望も持てず、「曖昧な喪失」を抱えている。その宙ぶらりんな気持ちは夢に現れる。

「私たちはフィールドワークを通じて、大切な人を亡くしてもなお、自分が生かされている意味に悩み苦しみ、立ち往生している方の多さを思い知らされました。その方たちは精神的に社会から孤立している『孤立無援』の状態にあります。しかし、夢の中では違います、亡き人が見せてくれる夢を通じて、生きることを応援されていると感じる方は多いのです。この本のタイトルを考えていたとき、ゼミ生の一人は『孤立“夢”援』の言葉を提案してきました。その言葉通り、ご遺族は夢を通して、亡くなった方から慰められ、支えられているのだと思います」

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