この柔軟な国民性は、ビジネスシーンで最もよく見られます。イスラエルは現在、イノベーションと「型破りな」思考を必要とする新興企業(スタートアップ)の世界的リーダーです。しかし、長期的な管理を必要とするグローバル企業の管理にはいまだ成功していません。スタートアップにはイノベーションが必要ですが、確立された企業を所有するには「忍耐」が必要で、この特性をイスラエル人は持っていません。

 イスラエルの迅速な予防接種を助けた二つ目の要因は、プライバシーについての考え方です 。またはプライバシーに対する意識の欠如、とも言い換えられます。迅速なワクチン接種には情報の共有が必須です。例えば、ファイザー社のワクチン接種は、3週間の間隔をあけて2回行います。しかし2回目を受けるために必ずしも同じ診療所に行く必要はありません。なぜならイスラエルの医療システムはほぼ完全にコンピューター化されているので、関係者相互に情報が共有されているからです。これはプライバシー情報に対する懸念を提起しますが、イスラエル人は日本人よりも、便利になるのであれば多少の妥協は受け入れることが必要だと思っています。

 私が日本に住んでいたとき、人々のプライバシーを守ることがいかに重要だったかを覚えています。例えばある本を読んだ後、その著者である大学教授にコンタクトを取りたかったのですが、その人の連絡先(Eメールなど)をオンライン上で入手することができませんでした。大学のオフィスに連絡してもその人のプライバシーを理由に拒否され、話したい教授に連絡できないことがありました。プライバシーはもちろん大事ですが、それをあまりに強く保持することは時には逆効果になることもあるのです。 

 第三の理由として、イスラエルは、日本と同じように、公的医療制度が完備されていることです。イスラエルの医療制度は、1950年代から1960年代に確立しました。その時代のイスラエル政府は強い社会主義的方針で、すべての市民が医療サービスにアクセスできる政策をとりました。米国とは異なり、イスラエルの医療システムは国家の義務であり、比較的安価に、すべての人がアクセス可能となっています。また政府が中央集中型の公的医療システムを持つことは、全国の新型コロナワクチン接種の管理上の利点にもなりました。

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