一方、内科的治療としてはPCI(経皮的冠動脈形成術)がある。血管に挿入したカテーテルを病変部まで送り、そこに筒状の器具(ステント)を留置することで、狭窄した血管を広げる。胸部を切開する必要がないため、からだへの負担が小さい。

 帝京大学病院の上妻謙医師はこう話す。

「病院によって、バイパスが得意、PCIが得意というところもあり、治療選択のボーダーラインは異なります。一般的には、冠動脈の複雑な部位に病変があるなど、カテーテルでは成績がよくない症例ではバイパス手術が選択されます」

 今回は、70歳の患者が、からだの負担も考慮した上でPCIを選択したケースを見ていこう。

■器具の進化により再発率は低くなった

 根治的治療のバイパス手術と比べ、PCIはかつて治療後に再び狭窄を起こす事例もあった。しかし近年ではステントの進化により、再発率は数%にまで下がったと言われている。

「再狭窄の原因は新生内膜という組織の増殖ですが、今はそれを抑える薬を塗った『薬剤溶出ステント』を使用しているため、治療成績が上がっています。しかし、できる限り再発を起こしたくないという場合は手術を選択することもあります」(上妻医師)

 確率は低いが、薬を塗っていても、再狭窄してしまう場合もある。例えば糖尿病を合併している人などは、新生内膜の増殖が多い。また、複数のステントを留置している人は、 その分だけ再狭窄の可能性が高まる。

■再治療の判断は症状の有無も含めて

 PCI後の再発に対する再治療は、やはりPCIだ。しかし必ずしもステントを使用するとは限らない。

 薬剤コーティングバルーン治療という、薬剤を塗布したバルーンを患部で膨らませることにより、狭窄した血管を広げる方法もある。ステントを留置することなく、薬剤を塗ることができる。

「患者さんに説明をすると、からだに異物をいくつも入れるよりは、入れないほうを好む人は多いですね」(同)

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