ニューハート・ワタナベ国際病院の渡邊剛医師はこう話す。

「TAVIと手術の一番の違いはからだへの負担です。TAVIは全身麻酔も人工心肺も使用せず、胸を切る必要もない。合併症をもった人など、体力があまりない人はTAVIがいいでしょう。一方、手術は弁を置き換えるだけでなく、自分の弁を形成して直すこともできる。そしてTAVIよりも長い期間、弁が保たれます。TAVIは弁の寿命が短いのです。根治性があるため、いたって元気な人であれば、手術がすすめられます」

 小倉記念病院の曽我欣治医師は、最初の治療選択における医師の説明が重要だと話す。

「TAVIか手術かだけでなく、その先の切開の方法や術式の安全性に関する説明も大事です。低侵襲治療は完遂できれば非常に良いものの、トラブルになった時のリカバリーには困難を伴います。またTAVIで使用する弁の耐久性については、まだわかりつつあるという段階で、こうした事実も含めて説明を受ける必要があると思います」

■どの弁を直すかによって適切な術式は異なる

 弁の直し方には弁形成術と弁置換術の二つがある。弁形成術は、自己の弁を温存したまま形成し、機能を回復させる。自己弁を切り取って人工弁を縫い付ける弁置換術と違い、血液をさらさらにする薬(抗凝固薬)を飲む必要がない。

「ただし大動脈弁狭窄症の場合は、弁が石灰化してしまっているので、 自己弁を形成することができません。一部の技術の高い病院では、自己心膜を利用した弁形成術をおこなうこともありますが、基本は弁置換術が選択されます」(渡邊医師)

 チャートでは、大動脈弁狭窄症のため、弁置換術を受ける患者の治療選択をたどっている。

■2種類の人工弁から選択 年齢が判断基準のひとつ

 弁置換には人工弁を使用するが、それは2種類から選ぶことができる。ウシやブタの組織からつくられた生体弁と、人工材料でつくられた機械弁だ。

「65歳以上は生体弁、65歳未満は機械弁、というのが一般的です。生体弁は、10~20年はもつ。機械弁はより耐久度が高いかわりに、抗凝固薬を飲み続けなければなりません。血液が固まって弁が動かなくなったり、 かたまりになってからだ中に飛んでいき、脳梗塞などを起こす可能性があるからです」(同)

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