ベーシックインカムを受給するとは、いわば、そうやって消費のために動かされていく世界に生きるということです。そもそも、ベーシックインカムという考え方のおおもとには、労働者が自らの労働権をしっかり行使して、その対価として得られるべき所得を得て生きていくという発想がありません。本当にそれでいいのかという、難しい問題を考えなくてはなりません。

 政治家の中にはベーシックインカム論を立ち上げようとする人たちもいますが、いまひとつ説明しきれない理由は、いったい誰が何のためにベーシックインカムをやろうとするのかということが明確にされていないからではないでしょうか。

■ベーシックインカムは、人間を不幸にする?

白井:質問された方も2つの可能性があると思っておられるようですが、私も基本的にはその2つの可能性があるだろうと思います。

 ですが、少なくとも、現時点で仮にベーシックインカムが導入されるとするならば、たぶん精神的にネガティブな影響が広がる結果にしかならないじゃないかなという気がします。いうなれば、国民一億総生活保護者化するっていう感じになっちゃうのではないかと。

 生活保護という制度に関してはさまざまな問題というのが指摘をされていますが、私がここで問題にしたいのは、不正受給が起きるかもしれないなどといったことではありません。ベーシックインカムは、それをもらいながら暮らすことで、「何もしなくていいんだろう。医療費タダだしな。あー、なんて安楽で、充実もしているな。本当にこれが最高の生き方だ」と思える人がどれほどいるのだろうかという、根本的な問題をはらんでいると思います。

 たぶん、そんな人はほぼいないと思うんです。それが、人間のある種、社会的本能ということなのではないかと思います。

 ベーシックインカムをもらうとは、いわば、「自分が社会に対して何も与えることができていない」と思いながら、社会から一方的に受け取っているという状態です。もちろん実際には、本人が気付いていないだけで、何かしら社会に与えているのかもしれません。でもとにかく、「与えていない」と思わされる状態で、一方的に給付を受けるという状況が、人間はすごく不愉快、不本意なことなんだろうと思います。だから心がすさみやすいという問題を抱えているのではないでしょうか。

次のページ