NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「姉妹間で互いに比べて劣等感に悩む娘たち」を心配する父親へアドバイスを送る。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

【相談者:11歳と10歳の娘を持つ40代の父親】
小学5年生と4年生の娘を持つ41歳の父親です。小さいころから仲のいい姉妹なのですが、「妹は成績が優秀だけど自分はダメ」「お姉ちゃんは習字がうまいけど自分は書けない」など、互いを比較しては自信をなくし、みじめな気持ちになっているようで心配です。親としてはそれぞれいいところを褒め、比較しているつもりはまったくありません。これから思春期を迎えるにあたり、父親として2人にどう接したらよいでしょうか。また、本人たちが、劣等感や嫉妬を乗り越える方法はありませんか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・季康子、問う、仲由(ちゅうゆう)は政(まつりごと)に従(したが)わしむ可(べ)き与(か)。子曰わく、由(ゆう)や果。政に従うに於(お)いてか何か有らん。曰わく、賜(し)や政に従わしむ可き与。曰わく、賜(し)や達。政に従うに於いてか何か有らん。曰わく、求(きゅう)や政に従わしむ可き与。曰わく、求や芸。政に従うに於いてか何か有らん。(雍也第六)

【現代語訳】
・季康子がたずねた。「子路は政治に用いるのにふさわしいでしょうか?」
孔子がおっしゃった。「子路は果断である。政治の任につくのに、何の難しいことがありましょうか」

季康子がたずねた。「子貢は政治に用いるのにふさわしいでしょうか?」
孔子がおっしゃった。「子貢はものの道理に達している。政治の任につくのに、何の難しいことがありましょうか」
季康子がたずねた。「冉求(ぜんきゅう)は政治に用いるのにふさわしいでしょうか?」
孔子がおっしゃった。「冉求は技芸に優れている。政治の任につくのに、何の難しいことがありましょうか」

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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