「血管内治療は、からだを切らずにカテーテルを挿入する穴を開けるだけなので、からだの負担が少なく済みます。近年では、従来の金属製ステント以外に、ステントグラフトと呼ばれる人工血管付きステントも開発されたことで、より多くの部位に対して治療が可能になりました。対して、バイパス手術は全身麻酔が必要で、患者さんの身体的負担は大きくなります。しかし、より多くの血流量が確実に得られ、長持ちします」

 どちらの術式でも同程度の効果が見込める場合は、基本的に、負担の少ない血管内治療が選択される。しかし、血管の太さや、病変の範囲によっては血管内治療が適切でないケースもある。病変の範囲が血管内治療に適応している部位とそうでない部位に広がっている場合は、バイパス術を併用したハイブリッド手術をおこなうこともよくあるという。

 最近では、一度留置したステントを取り除けないという血管内治療のデメリットを解消するため、薬剤溶出性バルーンが使われることもある。バルーンの表面に再び血管が詰まるのを防止する特殊な薬を塗ったものだ。体内に異物を残さないので、もし再発しても治療の余地がある。

 こうした血行再建術をおこなうと、脚(下肢)の血流は改善するが、それで終わりではない。

 潰瘍などの傷はすぐに治るものではなく、血行再建術の後も、切除や洗浄などの適切な処置をおこなう必要がある。また、術後も再発の可能性はある。ASO患者は脚だけでなく、心臓や脳などにも動脈硬化が起きている可能性がきわめて高い。生活習慣を改善し、高血圧や喫煙などの危険因子を排除していかなければ、命の危険もあることを忘れてはいけない。

■遺伝子治療薬による補助療法が登場

 血管内治療の登場により大きく前進したASO治療だが、現在も新たな研究が進められている。2019年に、5年間限定という条件付きで保険適用された遺伝子治療薬「コラテジェン」は、筋肉に注射することで新たな血管が生まれやすくなるように促す効果がある。5年間の保険適用期間のうちに優れた臨床結果が出れば、その後も保険が適用される。

 また、尾原医師らにより、これまでの標準治療のみでは治すことが難しかった皮膚潰瘍に有効な塗り薬の臨床研究が本年中に開始される予定で、新しい再生医療として注目されている。

「血行再建術の後に遺伝子治療や再生医療を用いることで、潰瘍などの治りが早くなる可能性があります。今ある標準治療にプラスアルファで用いられる、補助療法という位置づけです。注射するだけで太い血管が次々に生えてくるというイメージを持たれがちですが、目に見えないような細い血管の新生を促す効果を期待しています」(尾原医師)

 今後の動きに注目したい。(文・中川雄大)

週刊朝日  2021年2月26日号